ここモロッコの古都、マラケッシュには西サハラの首都ラユーンから夜行バスで到着した。
2月の気温は非常に低く、山の頂には雪が覆いかぶさっている。
[寒さに弱いわけではないが間違っても強くは無い]この「デューク東城」、当然のことながら寒さに震えながらの到着であった。
朝の1000時、駅の近くにあったバス乗り場に到着する。目指す宿は旧市街の中心[ジャマエルフナ広場]にあり、歩いて40分ぐらいはかかりそうだった。
かじかむ手をこすりつつ、朝の1000時だというのにまだ寒いこのマラケッシュで目的の広場に向けて歩みを進める。
しかしモロッコの街は建物がほとんど茶色でそれが砂漠の街という印象を強めてくる。しかもマラケッシュは想像以上の都会で、ビルにはなんと[エスカレーター付]などというおしゃれなものまで存在していた...
そうこうして[ムハンマド5世通り]を5分ほど進んでいくと左手に日本では良く見慣れていたがアフリカでは殆ど見かけなかった看板が目に入ってきた...
赤をベースにしてその上に黄色で大きく「M]と書かれているその看板...
ピエロ殿もしっかりと横にいらっしゃる...
「間違いない!”マクドナルド”だっ...」
思い起こせば最後にマクドナルドを食べたのは何時の事だったのだろうか?
たしか南アフリカのケープタウンからナミビアに向けて出発する日に「朝マック」を食べたのが最後だったのでは...、日付は忘れもしない、というよりも単純に持っていたメモ帳のカレンダーを見てはっきりとした去年の7月12日が最後の事である...
もうそれからゆうに7ヶ月は経過している。
今日は2月の1日...だっ....
日本に居た時は
「3度の飯よりマックが大好き!」
と評されたこの私がどれだけもの長い間この恋人と離れ離れになっていたというのだろうか...?
マリでは看板は同じものの実は「ミスターバーガー」等というふざけたファーストフードがあったがこれは違う!そんなまがい物じゃない!!本当にマックだ!!!
まだ宿には到着すらしていないがもう今日の宿のことなどはどうでもいい。
待ち焦がれていた恋人との再会の予感に打ち震え、寒さもどこへやら吹っ飛び、足早に店内に駆け込む。
清掃が行き届いたキレイなお店の中ではきちんとした制服に身を包んだ店員様がキビキビと動き回っている。メニューを表示している看板も日本とそんなに変わらなく美しいまんまだ。
[スマイル]が売りの店員様にこちらも負けじと笑顔でメニューを注文して2分...トレイに注文したセットメニューが置かれて私の前に姿を現す...
右にはカップに入った『コカコーラ女王様...』左には半分が紙に入った『フライドポテトお嬢様...』、そして真ん中に「ちょこんっ!!」と乗っかっていらっしゃるのは『フィレオフィッシュお姫様...』
もう卒倒しそうである。大事に大事に手に抱えて席に運んでしばらくぼんやりと眺める。
そしてついには熱い接吻を交わし始める。『フライドポテトお嬢様...』、日本での味は完全に忘れたが多分ここでもそんなには変わらないだろう....、
そしてクライマックスの『フィレオフィッシュお姫様...』
大事に愛しむかのように「はむっ」と一口頬張ってみる。
「あっあっあああああ~」
声にならない叫びが頭の中でこだまする。もう瞳は感涙にむせんでいる...
「こっこれだ!この味だったんだ...」
いかにも機械生産でしか醸し出す事のできないこの”無機質”な味...、何の変哲も無い大量生産の味...
そしてこれこそがまさに私が忘れかけていた
「文明の味」
だったに違いないだろう。
”文明”と生き別れてから7ヶ月...、
南アで別れた筈の恋人のマックに今度はアフリカの北の端のモロッコで再会を果たす....
もう瞳を流れ落ちる涙をぬぐう必要すら感じなく、ただ私の体全身を包み込むこの深い幸福感に溺れるように身を任せるばかりとなっていた...
「プロフェッショナル、デューク東城」、今『至福の時』をここマラケッシュにて迎える...
写真は「迷路の街」、モロッコ1の観光地、マラケッシュの街並