日本
2009.10.03(土)
発端は一人の男からの連絡だった。
彼はオペレーション・イリーガルを一緒に闘った強敵(とも)であり、聞けばその時のまた別のメンバーが近々帰ってくるので皆であいましょうという事だった。
他に既に帰ってきているメンバーがもう一人、これで8-10人程度の少人数出ミッションをこなしてきた我々の内4人が日本いる計算となる。
「マップ隊同窓会」
何よりも私以外の3人は全て先輩だ。(年齢ではありません、マップ隊を始めた時期です、念の為)
これは行かないわけにはいかない・・・
そこで私は新宿へ行く事にした。
待ち合わせした新宿駅
元マップ隊の4人のメンバーは1月ほど前に帰ってきて、今回のコーディネートをしてくれたM氏、3ヶ月ほど前に帰ってきたO嬢、そしてつい2日(3日?)ほど前に帰国したばかりのH氏にそれに私だ。そしてH氏の彼女のS嬢も来てくれたので合計5人と結構賑やかだ。
適当な居酒屋に腰を落ち着けてヨーロッパでの不法就労での話や他のメンバーの事などで楽しく時間は過ぎていく。
思い出話に華を咲かせる、このまま時間が過ぎれば、最高の飲み会だった。
だが・・・
その至福の時は今の私の話になった時、突然終わりを告げたのだ・・・
H氏「デュークさん、今は何を?」
D『いやぁ、お恥ずかしいけどニートですね~、実家にやっかいになってます』
H氏「あー、ニートなんて格好つけて言ってますけどただの”すねかじり”ですね。そんなの・・・」
その時、彼の口元にあった何か侮蔑に近い物を私は敏感に感じ取った。
(コイツ・・・Map隊では先輩だし、それにロリコンの世界では超一流のトップクラスで俺が全く敵わないのは知っている。だけどここは日本だ。俺はもう「家事手伝い歴(実際は家事に手を出そうとするとママのやり方と違って怒られるのでただ出された物を食べるだけがその手伝いになってます)半年」のベテランだ。十分に日本に馴染んでいる。それをたった2日前に帰ってばかりであの「酒井法子事件」の全貌すらろくすっぽ知らないニートの中でもさらにひどいダメニートのお前が”すねかじり”なんて言えるのかい?)
もちろんバイトの先輩、そしてその道の達人である彼に反論を口に出す事は許されない。
だが、ダメニートの分際である事を本人に分からせてやらなければならないだろう。私は少し強い口調でこう言い放った。
D『Hさんも所詮はニートでしょう・・・』
その質問に彼は私を見下すような感じで、そして隣の彼女をチラッと見るようなモーションを起こして余裕の笑みでこう言ってきた。
H氏「いいえ、俺はちゃんとヒモですよ・・・・」
D 『えっ!ええっ!!』
H氏は私の心理的動揺を見透かし、そしてそのダメージをさらに広げるように間髪入れずにM氏をみて
H氏「Mさんもですよね~」
と続けてきた・・・
彼は笑顔だ、態度に余裕も充分ある。
H氏の彼女のS嬢は27才・・・聞けば博士課程に進んでいる大学院生だ。
M氏は20代、彼女も恐らく20代・・・
だが、その時にはM氏の彼女の話を聞く余裕など・・・
私にはもう無かった・・・
目の前に突きつけられた冷酷な現実はこれだ。
デューク東城:帰国後半年:アメーバ赤痢を経験。両親の世話になるすねかじり・・・
M氏:帰国後約1ヶ月:彼女のヒモ・・・
H氏:帰国後2日:博士課程の大学院生の彼女のヒモ・・・
『こっ・・・このプロフェッショナルの完敗だ・・・・・・』
無職ならみんな一緒、そう思っていた私の淡い幻想も一気に吹き飛んだ(注:O嬢は最近就職してすでに私のワンランク上に脱出しています。)
私はただの”すねかじり”そして彼らはグレートな”ヒモ”生活・・・
なんといってもヒモといえば世の中全ての男性の憧れのポジションだ。
そう、同じ無職は無職でも”ヒモ”なら明らかに普通に働いている人たちよりも上の世界の住人、いわば”天上人”になるのだ・・・!!
この無職という底辺の世界でもこれだけの格差を生み出す勝ち組、負け組があった事が・・・
今、白日の下にさらけ出されたのだ・・・
彼らの顔が・・・
今とてつもなく輝いて・・・
そして眩しく見える・・・
私の瞳から、ほんの少しだけの水分が滲み出る、彼らに悟られてはいけない。
だが、余裕のあるH氏はそんな私の様子を簡単に見破っていたようだった・・・
勝ち誇ったような顔でバッグから、ある“物”をゆっくりと取り出し、皆の前で私に手渡しでこう高らかに宣言してきた。
H氏 「パリで買った“スニッカーズ”です。デュークさんよく食べてましたよね。余っているのでどうぞ!」
くっ、くぅ~・・・
こっ、これが勝者の余裕というやつか・・・
だが、今の私は完全なる負け犬だ。彼が差し出したスニッカーズをひざまずいて両手で手にとり、力なくこう答えるより他に選択肢はなくなっていた・・・
D 『へへー、かしこまりました天上人のHさま、この惨めな負け犬めにパリから舶来のスニッカーズを持って帰っていただきまして光栄の至りで感謝の言葉もありません。一生ついていかせていただきます・・・。』
と・・・
彼らと別れて山の手線に乗り実家へ向かう。
もちろん手には先ほどいただいた“スニッカーズ”を握り締めたままだ。
そして日暮里駅、次に来る常磐線が来るまでの待ち時間。
私は瞳を涙にぬらしながら一口、一口このスニッカーズを大事にかじりながら、こう決意した。
『今の俺はどん底だ。だがHよ、Mよ、見てやがれよ!俺はこのままじゃ決して終らない。いつか・・・いつかきっと・・・お前らに負けない立派なヒモになって見返してやる!』
と・・・