3月11日に起こった東日本巨大地震において、自衛隊はいち早く遭難者・被災者の救助、救援のために出動した。このような地震や津波といった天災において自衛隊、あるいは軍隊は最も頼りになる組織だ。以下、自衛隊が持つ、輸送、医療、食、核の能力について見る。
災害時の輸送に使えるヘリは500機強で世界最大規模
第1に自衛隊は、必要な物資の輸送において大きな貢献をしている。
自衛隊は、道路や橋梁が破壊されても、施設課(工兵)がそれを修理する。あるいは、自前の架橋システムなどを利用することで通行を可能にする。また「73式装甲車」など、装軌式車輛、いわゆるキャタピラを有した装甲車輛ならば、道路が破壊された場所、あるいは道路がなく通常のトラックが通れない場所でも通行が可能だ。今回のように津波で瓦礫が散乱している場所、地面がぬかるんでいる場所、火山灰などで道路が埋まっている場所などでも活動ができる。
またタイア式の装輪車輛でも、通常のトラック以上の走行能力を持つタイプを装備している。あるタイプは、タイアの圧力を変えることで不整地踏破能力を持っている。パンクをしても一定距離を走ることが可能なランフラット・タイアを装備している車輛も多い。
陸上での輸送が不可能であれば、空輸能力を使う。ヘリコプターを使用したり、自前の輸送機で物資を投下することが可能だ。また、ヘリ空母に搭載した救援物資をヘリで沖合の揚陸艦に運び陸揚げする。その帰りには、被災者を搬送する、といったことも可能だ。
消防や警察、自治体のヘリは小型が主流であるが、自衛隊は輸送用中型ヘリ「UH―60ブラックホーク」(搭載量は貨物1.2トンあるいは人員12人)や大型の「CH-47チヌーク」(搭載量は貨物9トンあるいは人員55人)をそれぞれ28機、70機(陸上自衛隊54機、航空自衛隊16機)保有している。これらは、一度に多くの物資や被災者を運ぶことができる。車輛などの重量物を空輸することもできる。もちろん、増漕を搭載すれば航続距離を伸ばすことが可能だ。
海上自衛隊や空自は、救難用ヘリ「UH-60J」を約60機保有している(汎用型の派生型)。これだけ多量の救難ヘリを有している軍隊は米軍以外ほとんどない。また海自は、対潜水艦ヘリ「SH-60J」及び「K」を95機ほど持っている。これらの対潜装備を降ろせば、救難や人員輸送に使用できる。同様に、約10機ある大型掃海・輸送ヘリ「MH-53E」や「MCH-101」も掃海キットを降ろせば大型輸送ヘリとして救難や物資の輸送に使用することができる。
災害援助に投入できる自衛隊のヘリは400機を越えるだろう。これは世界でも極めて大きな規模と言える。
輸送艦「おおすみ」やヘリコプター護衛艦「ひゅうが」などの貨物用のデッキや航空機の格納デッキなどを利用すれば、数百人から千人以上の被災者を収容することができる。これらの艦艇には外科用の手術室から歯科医施設まで本格的な医療施設が備えられている。必要とあらば、コンテナ式の医療システムを増加することも可能だ。当然ながら温かい食事をとったり、入浴や洗濯も可能である。
「おおすみ」級輸送艦が2隻ずつ搭載しているホバークラフト型の「LCAC(Landing Craft Air Cushioned)」は、砂地や揚陸設備が破壊された港湾に乗り上げて、約50トンの貨物や人員を積み卸しできる。災害救助に有効である。
意外に使えるのが基準排水量4050トンの練習艦「かしま」だ。艦内は練習生を収容するために実習用のスペースを広く取っている。このため、通常の護衛艦などに比べて極めて広いスペースを有している。
災害の現場でも手術まで可能な医療システムを装備
次に医療設備について見る。航空自衛隊の「C―130H」輸送機はコンテナ式の医療システムの搭載が可能だ。無論、ヘリにも医療システムが搭載できる。陸上自衛隊には野戦病院システムがあり、病院施設が機能しない場所に展開することも可能だ。また「CH-130」や「C-1」などの戦術輸送機は未舗装の短い滑走距離でも離着陸が可能なので、被災から仮復旧した空港などにいち早く物資を届けることができる。
これとは別に野外手術システムも存在する。本来は野戦用救急外科手術システムで、73式大型トラック4台で構成されている。トラック4台に4輌のコンテナを接続することができる。コンテナは手術準備室、手術室、滅菌室がそれぞれ1輛ずつ。各車輛は渡り廊下で結合できる。さらにもう1輛が関連資材運搬車となっている。通常の野戦病院よりも迅速に展開できる点がメリットだ。現在陸自はこれを10セット有している。
コンテナの扉を左右に開くことで、床面積を2倍に拡張できる。
250人の温かい食事を45分で調理
食の機能について見よう。災害で最も役に立つのが食を支える浄水車や給水車、野外炊飯システムなどだ。「野外炊具1号改」は最大250人分の温かい食事を45分で調理できる。また3 1/3トントラックが搭載する浄水セットは毎分150リットルのペースで河川などから取水し、これを逆浸透圧膜を使って浄化して飲料水にすることができる。
「野外入浴セット2型」は毎日1200人の入浴が可能。「洗濯セット2型」は毎時40着の作業着を洗濯できる。被災者の生活の質の維持に必要不可欠な装備だ。
これらは自衛隊の戦闘用装備を災害派遣に転用するものだが、災害派遣に特化した装備も存在する。「人命救助システムI型」はコンテナに中隊用の人命救助システムを格納している。瓦礫の下から被災者を救助するために利用する7つ道具だ。コンテナは、左右に展開すれば床面積が3倍になり、シェルターとして使用することも可能だ。またこれを補完する「人命救助システムII型」も存在する。
放射能汚染地域でも活動できる
今回の地震で注目されているのが「中央特殊武器防護隊」と「対特殊武器衛生隊」だろう。「中央特殊武器防護隊」は、陸自の中央即応集団の隷下にある、対NBC(核=nuclear、生物=biological、科学=chemical)兵器の専門部隊である。
「中央特殊武器防護隊」などが保有する化学防護車は完全密封されており、耐NBC装置を装備しているので放射能汚染地域でも一定時間、活動が可能だ。各種の測定やサンプル収集などの機能を持つ。汚染地域で作業をする場合、個人用防護装備--隊員の全身を覆うスーツとガスマスク――が必要となる。これらの装備は、使用した後、除染装置などで車輛や隊員を除染する。
「対特殊武器衛生隊」はNBC兵器による傷病者を救護する。近年では、放射能(radiation)を加えてNBCRと呼称する場合が増えている。
このように自己完結能力を持つ自衛隊はインフラが破壊された場所でも活動が可能である。そして、被災者救助やその生活支援ための広範囲な活動を支える装備を、すべて自前で持っている。
自己完結しており、被災地でも自立的に活動できる
自衛隊は軍隊と同様に、軍事作戦行動において以下の行動が自前で可能である。
移動
通信
警備・警戒
情報収集
航空機や車輛装備の整備・修理
食料や燃料、弾薬、その他物資の補給
野外における宿泊や入浴、給食
建物の建設や土木工事(その資材の調達を含めて)
このためインフラが破壊された被災地でも自立的に活動できる。これが自衛隊や軍隊と、警察や消防との大きな違いである。警察や消防は、通信インフラ、食事・宿泊、補給は基本的に民間、あるいは別組織に依存している。
襲われる懸念なしに救援活動を行える
そして自衛隊(軍隊)の最大の特徴は当然ながら自ら武装をしていることである。他国では、インフラが破壊され食料や飲料水の入手が難しくなると、暴動や略奪が発生することが少なくない。ことに貧民層が多い場合、部族や民族の争いがある場合、宗教問題で日常的に住民間に対立がある場合は、なおさらである。また援助物資をかすめ取ろうとする武装集団が軍隊を襲うこともある。
幸いにして我が国においては、災害で出動した自衛隊が、武装して警戒を行いつつ救援活動を行う必要がない。日本人には当たり前でピンと来ないだろうが、世界的にみれば極めて珍しいことである。さらに言えば便乗値上げで稼ごうという悪徳商人も出てこない。定価かあるいは値下げをする場合も少なくない。
暴動も略奪も起こさず、互いに助け合うことを当然としている。これは日本人が世界で尊敬され、信用される理由の一つである。このことに我々はもっと誇りを持つべきだ。
日経ビジネス
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