原子力発電を巡る言論、報道は、平時でも異常さを伴う。「被爆国である日本に原子力は要らない」という政治的イデオロギーによるヒステリックな批判がある半面、その反動として、日本が原子力技術を持つことは、いずれ核兵器開発につながるから、安全保障上、好ましいという軍拡派の論壇も盛んだ。
その結果、原発推進派の電力会社、行政、そして専門の学者までもが、過剰なまでに「原子力は安全です。軍事転用はあり得ません」と言い続け、極端な無謬(むびゅう)論、潔白主義が、逆に胡散臭さを生んでしまうという悪循環を続けてきた。
今回の福島第一原発の重大事故で、そうした悪しき「原子力パニック」が一気に噴出した。順を追って問題点を整理していくことが重要だ。まず、政府、原子力安全・保安院、そして電力会社の秘密主義とミスリードだ。
菅直人・首相は地震発生翌日(3月12日)の早朝、緊急災害対策会議を欠席して陸自ヘリで福島第一原発に飛んだ。
「総理は厚生大臣時代、O-157問題で風評被害を受けたカイワレ大根を自ら食べて安全をアピールした。その経験から、自ら原発に降り立つことで国民に安全であることを示すつもりだった」(官邸スタッフ)
政府は地震発生の4時間後に「原子力緊急事態宣言」を出し、「念のための避難」と同原発から3キロ以内の住民に避難を指示していた。そこに首相が行くのを止めなかったのは、官邸も原子力安全・保安院も事態を楽観視していたことを物語る。菅首相自身、同日15時の与野党党首会談の席上、“俺がこの目で見てきた”とばかりに胸を張って「原発は大丈夫」と説明した。 だが、まさにその時に1号機内で水素爆発が発生し、建屋が崩壊。官邸発案の「カイワレ作戦」は、わずか半日で破綻した。
※週刊ポスト2011年4月1日号
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます