団塊太郎の徒然草

つれづれなるままに日ぐらし

セブン・イレブンの構造問題

2009-09-08 23:21:31 | 日記





セブンに突き付けられた成長一辺倒への疑問、値引き事件が浮き彫りにした“構造問題


 王者・セブンがついに方針を転換した。

 セブン-イレブン・ジャパンは販売期限の迫った弁当類の値下げ問題で、公正取引委員会(公取委)から出されていた排除命令を8月中に受け入れる方針を固めた。

 問題となったのは、セブンが加盟店に対して弁当類の値引き販売をしないよう事実上の強制をしていたこと。公取委はそれに対して、「優越的地位の濫用」を適用した。

 「加盟店とはあくまでも対等」「店舗指導にやりすぎがあったのは一部の店舗だけ」。セブン社内ではこんな主張が根強かった。だが最終的にセブンは、勧告の受け入れに転じた。

加盟店のリスクが年々増加する構造

 しかしこれで一件落着というほど、単純ではない。公取委の措置は、セブンが持つ“構造問題”を浮き彫りにしたからだ。

 今回の価格統制の裏側には、弁当の廃棄費用の問題がある。下図を見ていただきたい。多くのコンビニは、売上高から原価を引いた粗利(売上総利益)を加盟店と本部で分配する「粗利分配」方式をとる。加盟店は粗利にチャージ率を掛けたロイヤルティを本部に支払い、残りの粗利から廃棄した商品の原価(廃棄ロス)を経費として負担する。


廃棄ロスはすべて加盟店の負担

 

問題を複雑にしているのは、通常では仕入れ原価に含まれる廃棄ロスが、すべて経費として処理される点だ。そのため下図のように、加盟店は商品を廃棄するより、値引きして販売するほうが、利益が増える。残った商品を値引き販売れば黒字だが、廃棄すると加盟店の収入が赤字になる場合もある。

 加盟店にとって廃棄ロスはそれだけ重い負担だ。公取委の調査では、1店当たり年間で約530万円。その分だけ、加盟店には値引き販売をするニーズがある。

 逆に本部は弁当の廃棄が増えても、受け取るロイヤルティが減ることはない。だから、本部は欠品による売り逃し(機会ロス)を防ぐために、できるだけ商品を並べろ、という指導になりがちになる。棚には商品がいつもずらりと並んでいて、顧客の買いたいものは必ずある。コンビニにとってそれが理想の姿だ。

 もちろん、売れる数を見極めて発注数を決めれば、廃棄ロスと機会ロスをともに減らすことができる。だが、理論上は可能でも、現実には難しい。セブンと公取委の間で最も見解が異なったのもこの部分だった。仮説・検証を繰り返し、適切な発注をすれば廃棄ロスは出ない。出るとしたら、それは加盟店の努力不足――セブンは公取委にそう主張した。

 「廃棄ロスだけでなく、機会ロスに目を向けよ」。これはコンビニの生みの親、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長の“鉄則”。確かに加盟店も独立した経営主体である以上、リスクを負って商売するのは、売り上げを伸ばすという「攻め」の観点からは当然の発想だ。


値引き販売したほうが加盟店利益は増える

だが、市場の成熟化が進む中で、FCの構造上、加盟店のリスクばかりが増えている。

 「高日販・高ロイヤルティ・高廃棄」。セブンのモデルは時にこう言われる。セブンは本部に支払うロイヤルティが他チェーンに比べ高い(業界2位のローソンより実質8~10%高い)。それでも優良な加盟店が集まったのは、ひとえに高い売り上げがあったためだ。平均日販(1日当たり売上高)では、2位以下に一時20万円近い差をつけていた。

 しかし2000年度以降、セブンの日販は下落が続き、2位以下との差も10万円程度まで縮小した。

 実際、加盟店のオーナー収入も減少が続いている。その分、加盟店にとってはロイヤルティ、廃棄ロスの負担が重くなる。一方で、店舗数が伸びているため、本部の利益は高水準を維持する(下グラフ)。

 今回、最大手のセブンに対して公取委の勧告が入ったことは、コンビニを取り巻く環境が大きく変化していることを象徴している。そしてそのひずみは加盟店に集中する。


加盟店1店当たりの収入は下がり続けていた

なぜセブンだけ? 理念貫くゆえの皮肉

 「本部と加盟店は共存共栄」――。これはセブンがフランチャイズ(FC)ビジネスの根幹として創業以来唱え続ける理念だ。

 それは決してウソではない。本部は店の経営指導を行い、商品開発や物流・情報インフラを構築する。一方の加盟店は、店舗経営と販売に専念する。セブンはその役割分担を明確にすることで、共存共栄を追求してきた。そしてその姿勢は、間違いなく他チェーンよりも一貫しており、それが強みでもあった。

 では、今回なぜ、セブンだけが問題にされたのか――。皮肉にもその答えがここにある。

 役割分担からすれば、どの商品を仕入れるかという発注権限は加盟店にある。となれば当然、価格の決定権も、その商品の在庫リスクも加盟店が負う。どのチェーンも建前はそうなっている。しかし実際のところ、ローソンやファミリーマートなどの他チェーンには“グレーゾーン”がある。たとえば、店や時期などの状況に応じて廃棄負担を負ったり、最低利益を保証するなどの支援をたびたび行う。ある店では、梅雨明けの前日、本部が一部廃棄負担するから飲料の発注を増やすよう指導があった。

 セブンにも、かつては弁当の廃棄分を期間限定で本部が買い取るなどの支援策があったが、ここ10年ほどで徐々に姿を消していた。その分、加盟店の不満も出やすい。

 また、FC契約も微妙に異なる。たとえばファミリーマートは、加盟店はまず推奨価格で販売することが前提で、その後の価格については本部と協議して決めるという内容になっている。

 セブンの基本契約書30条には「加盟店は商品の価格を自らの判断で決定する」と明記されている。加盟店指導の一部に行き過ぎがあったという事実だけでなく、セブンの場合、価格統制は明確な契約違反になる。

ガイドラインでは「原価割れ」を制限

 7月に入って、セブンの井阪隆一社長は週2回のペースで自ら公取委に足を運んだ。公取委が求めた、値引き販売に関する新たなガイドラインの内容をすり合わせるためだ。

 そこでセブンが固執したのが、仕入れ価格を下回った値引き販売を制限することだった。それを許してしまうと、「粗利配分」というコンビニモデルの根本が崩れてしまう。いわゆる原価割れでは、本部のロイヤルティが減るという事情もあった。

 ガイドラインには、加盟店が仕入れ価格を下回った販売価格を設定した場合、発生した損失を加盟店が負担する旨が盛り込まれた。セブンが受け入れに転じた最大の理由もここにある。無秩序な値引きが回避され、セブンからは安堵の声が聞こえる。

 「コンビニは変化対応業である」。これは鈴木会長の持論であり、哲学だ。にもかかわらず、今回の件は、その変化対応を最大の強みとしていたセブンが、外部の圧力がなければ変われない事実を露呈した。

 実はセブン社内では現場に近いオペレーション部の幹部を中心に、数年前から加盟店支援策の必要性が議論されていた。しかし、廃棄ロスの15%本部負担、複数店経営奨励制度などの新たな支援策を決定し、加盟店向けに通知したのは公取委排除命令の翌日のことだった。

 加盟店の実情を承知しながらも、なかなかトップを含めた議論に発展してこなかった組織の硬直性こそ、今のセブンが抱える問題かもしれない。今こそ、セブンの「変化対応力」が問われている。

(週刊東洋経済
)  

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