「JR上野駅公園口」 柳美里 河出書房新社 2017.2.20
単行本初出は2014年3月。
全米図書賞「翻訳文学部門/モーガン・ジャイルズ訳」受賞。
2020年「TIMEが選ぶ今年の100冊」
1933年、私は「天皇」と同じ日に生まれたーー
東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのたPに上野駅に降り立った。
そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。
高度成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇……
上野【恩賜】公園はもともと皇室のご料地で、明治から大正にかけては国家的イベントがしばしば行われ、天皇が行幸した。
ところが1923(大正12)年の関東大震災時は、最大50万人の罹災民を収容した。
宮内省から東京市に下賜され、恩賜公園となったのは、その翌年。
現在でも上野公園の博物館や美術館、日本学士院などに、天皇や皇族が訪れることが多く、そのたびに「山狩り」と呼ばれる特別清掃、すなわちホームレスの排除が行われてきた。
本書の最後には、3.11の津波に呑み込まれる故郷が描かれる。
常磐線は不通となり、男は帰るべき故郷を失う。
震災直後から被災した各県を回った天皇と皇后も、放射線量の高い主人公の故郷を訪れることはなかったーー
フクシマをはじめ、忘れてはならない様々を改めて考えさせられる。