「さまよえる古道具屋の物語」 柴田よしき
新潮社 2016.12.20
時間も空間も超えて、突如現れる古道具屋。
訪れた客に商品を選ぶ権利はない。
客を翻弄する不可思議な店主の望みは何なのか。
さかさまの絵本、
硬貨を入れる穴がない金色の豚の貯金箱、
底のないポケットのついたエプロン、
取っ手がなくて持てないバケツ、
茶色の包み、
ビリヤードの玉……
買い主たちがその店に集結するとき、
店の意思が解き明かされる。
「本当に必要なものは、意識せず考えなくてもいつもそばにあるものだ。たとえば空気」
「この世界には最初から、生まれてきて良かった存在も、生まれて来なければ良かった存在もないんだ。人は、ただ生まれて来る。なぜ生まれたか、どうして生まれたか、そんなことはどうでもいいこと。生まれて来たことそれ自体が大事なんだ」
「生まれて来たら、あとはひたすら生きるしかない。人生はそれですべてなんだ。そう思った」
「他人にどう評価されるかじゃなくて、自分が生きているっていう実感を求める。それでいい、ってことですね」
生きているだけで、上出来なのだ。
生まれて来ただけで、勝ったも同然なのだ。
誰も愛したことがない寂しさは、誰にも愛されない寂しさよりも寂しいのだろうか。それとも、愛されないほうがずっと寂しいのだろうか。
誰しも抱えている心の闇や、邪な心持ち。
まったく無関係なようでも、
どこかで繋がっている人間関係。
モノが呼び起こす感情。
めぐり、めぐって行き着くのは……
前を見て生きるってこと、かな。