「ウィッシュガール」 ニッキー・ロフティン
作品社 2017.7.25
訳 代田亜香子 選者 金原瑞人
初出は2014年。
学校でいじめにあい、家族にも理解してもらえない
ピーターは、ふと迷いこんだ谷で、
ウィッシュガールと名乗る奇妙な
赤毛の少女に出会った。
その少女・アニーは癌で、先が見えない。
彼女の意思に関係なく治療法を決めている両親に
反発があった。
二人が知り合ったエンプソンさんは言う。
「ひとりが好きなんだよ」
「自分がしたいことを、したいときに、自分て決められるのが好きなんだ」
「ありのままの自分でいたいんだよ。自分がどんな人気なのか、何者なのか、いちいち人に説明しなくちゃいけないんじゃなくてね」
アニーは言う。
「親に、それじゃ足りないっていわれるたびに…それじゃあ自分たちみたいにはなれない、自分たちの望むようにはならないってのいわれるたびに、少しずつ殺されてる気分にならない?なるはずよ」
誰しもやはり、こころの奥底では理解されたいと願っている。
実はみんな、心の底では相手を思いやっているのに、上手く伝えることができず、歯車が噛み合わなくて、ついつい自分の価値観を押しつけてしまって空回りしてしまう。
以心伝心は難しい。
どうしてもきちんと言葉で気持ちを伝えなければならないときがある。
今更ながら、そんなことを考えさせられた。
金原さんが選んだこのシリーズ、
できるだけ読んでみよう。
「わたしたちが自由になるまえ」
フーリア・アルバレス ゴブリン書房 2016.12
訳 神戸万知
1960年代のはじめ、
独裁政権末期のドミニカ共和国。
自由を求める闘いを見つめた12歳の少女の物語。
ラテンアメリカの国々では、「証(あかし)」と呼ばれる習慣がある、と作者は言う。
自由を求めて闘い、生き延びた人間には、証言をする責任があると。
亡くなった人の思い出を風化させないために、当時のことを語り継がねばならないと。
反政府運動が広がり、政権側の取り締まりが強まる中、国民は息を潜めて生活する。
父たちはいよいよ行動に出るが計画は頓挫し、多くの人々が捕まった。
アニタと兄、母は間一髪、アメリカに逃れたが、
捕らえられていた父とおじさんは殺された。
悲しみにくれ、落ち込んでいるアニタに
メイドのチューチャの、羽を忘れないように
という言葉が伝わってくる。
織から放たれた鳥みたいに、自由な心を持つこと。
そうすれば、独裁政権だろうと、なんだろうと、
その人から自由を取りあげることはできない。
今なお、恐怖政治とも言える独裁国家がある。
子どものときから、
最高の指導者、最高の国だと刷り込んでゆく。
闘いに巻き込まれる前のアニタが、
ボスは神様のような人だと思っていたように。
教育は恐ろしいと、改めて思う。