「フローラ」 エミリー・バー 小学館 2018.2.19
訳 三辺律子
感動した。
〈フローラ〉
〈わたしは17歳〉
フローラの手には、忘れてはいけないことが書いてある。
記憶障害の彼女は、なにも覚えていられない。
でも、彼とキスしたことだけは、覚えている。
これは、本当にあったこと?
〈フローラ、勇気を持って〉
フローラは記憶を失ってしまうため、何度も何度も同じことを繰り返す。
記憶をとどめるため、記憶を味わうため、記憶を確認するために。
常に自分はだれで、なにをしているのかを確認し直さなければならない。
記憶の代わりに、フローラはノートやメモや腕に言葉を書き連ねていき、
その言葉たちをたよりに日々の生活を、人生を歩んでいく。
新しい記憶が残るはずはないのに、
ある夜、ドレイクという男の子とキスの記憶は、消えなかった。
ドレイクのおかげで記憶をとどめることができたフローラは、
喜びにあふれ、彼に激しい恋心を抱くようになる。
しかし、ドレイクは、フローラの親友のペイジの恋人で、
しかも翌日にスヴァールバルへ旅立ってしまう。
フローラは、自分に記憶を与えてくれたドレイクとの愛を成就させるため、
スヴァールバルへいく決意をする。
けれども、記憶障害を抱えたフローラにとって、
その旅はもちろん簡単ではない。
兄からのメールーー
おまえは記憶喪失かもしれないけど、生きている。
おまえの人生を生きるんだ。
北極で出会った人も言う。
「きみのこと、すごいと思ってた。男の子を見つけるためにスピッツベルゲンまでたったひとりできたんだ。ぼくに何度も何度も彼のことを話して聞かせた。渇れのおかげで、覚えていられたこと。きみはやりとげる力を持った人だ。だから、今、あきらめちゃ駄目だ。きみは記憶障害があるけど、でも、生きてる。自分の人生を生きることができるんだから」
"忘れてしまうこと"と"発見すること"の間で揺れる感情が見事に描かれていた。
過保護な両親からの自立を勝ち取ろうと決心するフローラは強く逞しい。