かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 65

2023-06-22 09:57:41 | 短歌の鑑賞
  2023年版渡辺松男研究⑧(13年9月)
     【からーん】『寒気氾濫』(1997年)30頁~
     参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子、鹿取未放 
      司会と記録:鹿取 未放


65 ネクロポリスは月のかたちの石に満ち人寿三万歳のわれは行く

    (当日意見)
★実際こういった場所があるんですかね。それとも参考として書かれているような状態
 のことをネクロポリスと言うんでしょうかね。(鈴木)
★実景とか具体的な場面ではないように思いますが。第一〈われ〉は三万歳なんだから
 現実ではないでしょう。もちろん外国にはこの通りの巨大な墓があるかもしれないけ
 ど、旅行している訳ではなさそうだし。でも読み手は景も〈われ〉もこの通りのもの
 として一旦はリアルに受け止めないといけないし、私は書いてあるとおりに受け止め
 るけど。(鹿取)
★崎尾さんが死者の都とも言ったけど、その意味の方が広がりが出ますよね。(鈴木)
★そうすると人間始まって以来の、それこそ恒河沙の数の人間が全部眠っている死後の
 世界。でも三万歳というのは何なんでしょうね。クロマニヨン人は4万年くらい前で
 したっけ?(鹿取) 
★死者の都とか月の形の石に満ちというところが、とてもいいなと思いました。それか
 ら渡辺さんはよくいろんなところへ行くなあと思いました。(笑)(高村)
★前の歌では狭いところに閉じこめられて甕の中にいたけど、今度はこんなに大きくな
 って(笑)。ちまちましたところにずっといないのが渡辺さんらしい。連作で大小交
 互にきているみたいだ。(鈴木)
★月の形だからけっして汚くなくって。月という漢字が読み手に浮かぶように選ばれて
 いると思う。(高村)
★三万歳って思いついても、普通の人は読み手に受け入れられないだろうと思って使え
 ないですよね。(鈴木)
★こういう言葉を矯めて詩にできる力業が渡辺さん、すごいですよね。(鹿取)
★しかも実感がこもっている。作り物って感じがまったくしない。(鈴木)


       (追記)
 Wikipediaによると「ネクロポリスとは、巨大な墓地または埋葬場所である。語源は、ギリシャ語の「nekropolis(死者の都)」。大都市近郊の現代の共同墓地の他に、古代文明の中心地の近くにあった墓所、しばしば人の住まなくなった都市や町を指す。」(一部省略)
 もしかしたら、今、〈われ〉が三万歳なのではなく、人類滅亡後の世界を透視しているのかもしれない。三万歳になった〈われ〉がいるのは、死者の都=ネクロポリス。累々と人類の墓碑が広がっているのだ。しかしこの歌に身震ふほどの怖さを感じないのは、月の形の石で、ロマンがあるからか。月によって死が清浄に感じられるからか。月の形の石に満ちた景にこそ作者の独特の思いがあるのだろう。(鹿取)


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