かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 119

2020-11-21 17:17:52 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究14(14年4月)まとめ 『寒気氾濫』(1997年)50頁~
  参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、N・F、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:鈴木良明 司会と記録:鹿取 未放
             

119  冷凍庫から剥製に出す大鷹の死にて久しき血はしたたらず

         (レポート)
 冷凍庫には剥製にするための動物などがさまざまに収められているのだろう。その中から取り出された大鷹は、死んでから長時間冷凍庫に保存されていたために、もはや血はしたたらない。大鷹は、まだ生きているかのように勇壮な姿を保ちながらも、血液が流れていないことで今や空ろな存在になっているのだ。大鷹にとっては、血流こそがその勇壮な姿を支えてきた源であることを作者は改めて感じている。(鈴木)
           
      (発言)
★仕事に関係する歌ですよね。そういうエッセーを読んだことがあります。怪我をした鳥を助手席
 に乗せて博物館だかに運ぼうとしていたら途中で鳥が元気になってその目がとても怖かったとい
 う話。(鹿取)
★渡辺さんは群馬県の自然保護委員か何かをやっていたようです。だから動物にも植物にも詳しい
 ですね。群馬には自然史博物館がありますね。(N・F)

 ※私の発言にあるエッセーは「鳶を怖いと思った」(「歌壇」1999年8月号)。いわゆる   〈アニミズム〉について疑問を呈しながら深い考察をした1頁半のエッセーだが一部を抜粋する。   死んだ鳥を職場の冷凍庫に保管していたら気味が悪いというクレームがついて、専用の冷凍庫を
買って貰ったという話しも記されている。(鹿取)

・死んだ鳥を新聞紙に包み私は剥製屋さんへ持って行った。できた剥製は資料館に展示した。そう
 いう仕事をしていたときがあった。
・また、あるとき助手席に鳶を乗せて野鳥病院へ向かっていたことがあったが、ぐたっとしていた
 ので動かないだろうと思って、簡単に布で巻いたぐらいで乗せていた。それがだんだん元気にな
 ってきて、目に鋭さが戻ってきた。身動きをはじめた。隣にいる鳶はとても大きい。空を飛んで
 いるのを見てさえ大きく見えるその鳶が助手席にいる。もし翼を広げたりしたら一五〇センチは
 下らない。
・本当に元気になってしまったらどうしよう。一刻もはやく野鳥病院へ運ぼう。私はスピードをア
 ップした。鳶と二人っきりで密室にいるようなものだ。鳶を怖いと思った。
・アニミズムをわかりやすく理解しようとしてみたところで、それが根本のところで宗教的感覚で
 ある限りにおいて必ず生への畏敬とともに死の意識や恐れを内包しているはずである。
・歌は言葉であり、言葉そのものがすでにアニミズムを逸脱しているとしか思えないからだ。
・もし本当にアニミズムを徹底してしまい、アニミズムの森へ入ってしまったならば、それは怖い
 ものであり、個別性の概念でさえ崩壊するであろうと私は思うし、そのことによって自己概念の
 土台が崩壊してしまうような怖さを感じるのである。そのとき個別性のかけがえのなさはどうな
 ってしまうのだろう。


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