かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 104

2023-08-27 11:36:26 | 短歌の鑑賞
 2023年版渡辺松男研究⑫ 【愁嘆声】(14年2月)まとめ
     『寒気氾濫』(1997年)44頁~
     参加者:渡部慧子、鹿取未放、鈴木良明(紙上参加)
      レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取 未放
       

104  三十五万回「狂」という字を思いみよ入院者三十五万人の「狂」

       (レポート)
 「三十五万回『狂』という字を思いみよ」とは、そのことごとくの精神や暮らしぶりを思い、寄り添ってみよというのであろう。「思いみよ」となげかけたものを、「入院者三十五万人の『狂』」と下の句では作者のふところに回収しているように思う。正と狂の境は何であろうか。(慧子)


       (意見)
 数は大きくとも小さくとも、その数値自体はなかなか実感しにくい。そこで現実に存在するものとの比較でその大きさを実感する方法が用いられる。たとえば、あるものの大きさを実感するために、その隣に「たばこの箱」を置いてみるなどである。本歌では、入院者三十五万人の
「狂」を実感するために、「狂という字」を思ってみよ、というのである。「狂」という字を三十五万回も。ただただ、圧倒されるが、そもそもこの数字は何なのだろう。最近の障害者白書(平成23年版)によれば、全国で精神疾患患者数約三二三万人、そのうちの10.3%が入院者数とのことであるから、本歌の数に近い。(鈴木)


       (当日発言)
★私はわりとこの歌は分かりやすかったです。どこかで精神疾患による入院患者数の統
 計を見ましたが、毎年34万から35万の数で推移しているんですね。そして鈴木さ
 んも書いているように35万という数だけ言っても実感できないので、ひとりひとり
 の病んでいる人の顔は見えないんだけど、苦しんでいる人がいるんだよと、35万回
 「狂」という字を思い浮かべてみてください、って言っているのよね。そうしてもま
 あ届かないんだけどね。 (鹿取)
★「思いみよ」と命令形で言っていますけど、別に他人に命令している訳ではなく、自
 戒かもしれないですね。あんまり実生活に照らし合わせて考えたくないですが、公表
 されている作者の年譜によると25歳で精神病院に通い始めたとあるし、公務員とし
 て精神病院関係の仕事もされていたようなので、精神を病んで苦しんでいる人を見て
 の実感なんだと思います。私も身近に心を病む人がいるので、そ の苦しみが分から
 ないもどかしさをいつも感じていて、この歌はわりとすっと心に入ってきます。
   (鹿取)
★そういうことなのですか。やっと分かりました。(慧子)

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