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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 44

2022-04-06 12:00:08 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の6(2017年11月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
    【夢監視人】P32~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、渡部慧子、A・Y、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆    司会と記録:鹿取未放
     

44 吾亦紅(われもこう)じくっじくっと空間を焦がしていたり 戦争ははだか

        (レポート)
 吾亦紅からじゅっと音をたて戦地に焼け焦げになっている人間を連想した。戦争は人を殺め死した裸を地にさらすのだ、アウシュビッツでもヒロシマでもそうであったように。(真帆)


         (まとめ) 
 全ての生き物は丸裸でこの世に投げ出されていて、お互いに食い合うことなしには生存できない。それは植物とて同じである。渡辺松男にある根源的な恥ずかしさの感覚は、この裸で投げ出されている存在の痛みからきているのであろう。そしてこの歌では、吾亦紅が〈われ〉であり、存在するもの全ての代表でもある。吾亦紅はいかにも剥き出しの裸のような花であって、焦げ茶色をしている。「じくっじくっ」の空間を焦がしつつ浸食するオノマトペと戦争の語の繋がりが巧みである。もちろんこの歌の戦争は兵器を使って殺し合うものだけでなく、生存競争も含んでいて、それゆえに一字あけの後に置かれた結句の「戦争ははだか」のあられもない言葉が重苦しくにがい心に響いてくる。(鹿取)


         (歌集評)
 渡辺松男歌集『泡宇宙の蛙』を読んでまず注目したのはこの歌であった。とくに「戦争」という言葉にはひどく考えさせられた。渡辺松男の「戦争」は、それにほとんど無批判にのめりこんでいった斎藤茂吉の「戦争」とも、生涯かけて愚直なまでにそれにこだわりあらがい続ける近藤芳美の「戦争」とも明らかに異質のものである。「じくっじくっと空間を焦がして」いるという吾亦紅の比喩の仕方も客観的写生ではない。吾亦紅の黒い粒々=空間を焦がすという発想は渡辺松男の内的必然性から生み出されている。したがって上の句は世界に対する個人的かつ主観的認識を示すものである。下の句の「戦争ははだか」における「戦争」もまたきわめて実践としての「戦争」からは遠い。この歌における「戦争」は地球上に生きとし生けるすべての「生物」とでも理解すべきである。生物は常に他の生物を侵食することでしか生きられない。したがって「戦争ははだか」とは、人間をふくむすべての生物の存在の在りようの残酷さを表現しているのである。ここではヒューマンな戦争反対という叫び声も色あせる。この一首は『泡宇宙の蛙』における、渡辺松男の世界や存在への関わり方の基本的な姿勢を示しているのである。(鶴岡善久)
       「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号)

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改訂版 渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 5

2022-04-06 11:45:35 | 短歌の鑑賞
 ※本日から改訂版を先にアップします。
  既にアップした『泡宇宙の蛙』2の1~2の5までの鑑賞を大幅に変更した歌について、
  改訂版を1首ずつ載せてゆきます。
 この後、通常の鑑賞を載せます。 

  改訂版 渡辺松男研究2の1(2017年6月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
    【無限振動体】P9~
     参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放

4  概念を重たく被り耐えているコンイロイッポンシメジがんばれ

        (まとめ)
 コンイロイッポンシメジはアカマツなどの茂った針葉樹林などの地上に発生するそうだ。画像を見ると紺の色がやや無気味な小さい茸だ。千本茸のように群れていないので人間に勝手に「コンイロイッポンシメジ」などという名前を付けられ、そういう概念を被せられている。そんな茸に向かって作者は頑張れと声援している。(鹿取)


      (後日意見)
 「地に立てる吹き出物なりにんげんはヒメベニテングタケのむくむく」について、渡辺松男は「人間のたとえに使ってしまい、ヒメベニテングタケには申しわけないことをしたと思っています」と「かりん」2010年11月号の渡辺松男特集号で発言しているくらいだから、人間は自然界の他のものに対して、むしろ加害者だという意識が強いのだろう。少し先の頁に出てくる次の歌なども同じ感受の仕方だと思う。(鹿取)
 ごうまんなにんげんどもは小さくなれ谷川岳をゆくごはんつぶ『泡宇宙の蛙』

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