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古巣サムシンエルス移籍第一弾となるイリアーヌの新作は、ビル・エバンスに縁のあるスタンダードを集めた企画作品です。
最近、特にBMGに移ってからのイリアーヌは、以前にも増してヴォーカルに比重を置いた作品作りをしてきました。04年のヴォーカル作品『 Dreamer 』が好セールスを記録したのに味を占めたイリアーヌは、06年にはロック系のプロデューサーを招いて、POPS/ AOR 路線に趣向を変えた作品『 Around The City 』をリリースしました。しかし正直なところ、ジャズ・ファンからはあまり評判は良くなかったと記憶しています。個人的にも、ヴォーカリスト・イリアーヌよりも、ピアニスト・イリアーヌの方が好きなので、最近の彼女のヴォーカル路線には寂しさを感じずにはいられません。ダイアナ・クラールがピアノを捨て( 彼女もかなりピアノが上手い),ヴォーカルに徹することで名声を手に入れたことに、少なからずイリアーヌ(およびレコード会社)も影響されているのかもしれませんね。
そんなわけで、彼女のクールでスインギーなピアノを聴きたいと思うと、近年の作品では2000年の『 Everything I Love 』( Blue Note ) まで遡らなければなりません。これは、彼女の真価である力強さと繊細さ、あるいはスイング感と叙情感が絶妙なバランスで表現された素晴らしいスタンダード集で、目下、僕の一番の愛聴盤です。もう少し前の作品では、 Danish Radio Jazz Orchestra との共演盤『 Impulsive ! 』( 1997 Stunt ) (前項あり)も隠れた名盤です。さらには彼女のデビュー作『 Illusions 』( 1987 DENON ) もやや軽めですがなかなか美しいピアノ作品でした。
こうして見ると、意外に彼女のピアノ作品って少ないのですが、今回は約半数の曲にヴォーカルが入っているものの、久し振りにたっぷり彼女のピアノが楽しめる素敵なエバンス・トリビュート作品に仕上がっています。
ところでイリアーヌのエバンス愛奏集って、ちょっと意外な感じもしましたが、そう言えば、02年にハービー・ハンコック、ボブ・ジェームス、ブラッド・メルドー、イリアーヌの5人がエバンス愛奏曲をカヴァーした作品『 Portrait of Bill Evans 』( JVC )で、彼女は ≪ Come Rain or Come Shine ≫ と ≪ If You Could See Me Now ≫ を演奏していました。5人の中でも特にイリアーヌは元曲をリモデリングぜす、エバンスの奏法を極めて忠実に再現した曲作りをしていました。
ふと思ったのですが、イリアーヌというピアニストはかなり器用な人です。ステップス・アヘッドでのフュージョン物もできれば、もちろんボッサも得意。モーダルなフレーズもカッコいいし、かと思えばエバンス・ライクな叙情的フレーズもいける。そして、意外に力強いスイング感溢れるソロも驚くほど巧い。
何所かに書いてありましたが、彼女は10代前半には全てのスタンダードを演奏でき、更には、レッド・ガーランド、オスカー・ピーターソン、ビル・エバンス、ハービー・ハンコック、キース・ジャレットらのソロを譜面におこし、分析、研究し、あらゆるジャズに対応できるバーサタイルなスキルを身につけていったと言われています。
閑話休題。さて、本作はボーナス・トラックを含め全18曲という大盛り作品ですが、どれも3分から4分の短尺な曲が並んでいます。この中には、本作制作の契機となったマーク・ジョンソン所有のエバンス未発表曲2曲が含まれています。その2曲のうちの1曲 ≪ Here Is Something For You ≫ では実際のエバンスの演奏テープが使用され、その演奏を受け継ぐ形でイリアーヌのソロに移行していく、といった凝ったギミックも用意されていています。更には、2曲のみですが、マーク・ジョンソンがスコット・ラファロの愛器を弾いている、というおまけ付き。まあ、実際に音の違いは僕には全然わかりませんけどね。
確かに出来の良い作品だと思います。選曲も意外性があり楽しい。聴けば聴くほど味が出る。数あるエバンス・トリビュート作品の中でも最上位に位置付けされる秀盤ではないでしょうか。惜しむらくは、もう少しヴォーカル曲のウエイトを減らしてくれればもっと良かったかと。そして歌うなら英語ではなくポルトガル語で歌ってもらえればよかったな~って。ボサノバを歌うイリアーヌに馴染んでいる耳には、英語で歌うイリアーヌに違和感を感じてしまうのですね。でも、なんだか、昔より歌、巧くなったな~、彼女。
Eliane Elias 『 everythig I Love 』 2000 Blue Note
オープニングは彼女のオリジナル ≪ Bowing To Bud ≫ (バド・パウエルに会釈して)で始まりますが、それ以外はスタンダードばかり。兎に角、「イリアーヌって、こんなにご機嫌にスイングするのか~」と、驚くばかりです。ボッサ・イリアーヌの対極に位置する好盤です。なお、≪ Bowing To Bud ≫ は、99年のステップス・アヘッドの同窓会的ヨーロピアン・ツアーをおさめた2枚組ライブ盤 『 Holding Together 』でも演奏されています。
Eliane Elias & The Danish Radio Jazz Orchestra 『 Impulsive ! 』 1997 Stunt
最近、やや元気のない Danish Radio Jazz Orchestra ですが、本作はイリアーヌの客演によって素晴らし作品に仕上がっています。彼女のソロは絶品です。
Eliane Elias 『 Illusions 』 1987 DENON
20年前のイリアーヌのデビュー盤。透明感、爽快感の漂う、何処となくデヴィッド・フォスターを彷彿させる作風です。
Eliane Elias, Dave Grusin, Herbi Hancock, Bob James, Brad Mehldau
『 Portrait of Bill Evans 』 2002 VJC
ハンコックだけ、ふざけたようなオリジナル曲を演奏していますが、他の4人はエバンスの遺伝子を受け継ぐ叙情性豊かな名演を披露しています。
本作は久しぶりにピアノの比重が高い作品なのですが、もう最初の1曲目を聴いただけで成功を確信しました。
またエバンス・トリビュートとしてかなり上位に食い込みますね。
次回はハンコック・トリビュートあたりをやってくれないかなぁ(笑)
初イリアーヌなので、的確なコメントになっていない可能性大ですが..(汗)
彼女は、僕の記事でも書きましたが、かなり器用であるため、女性でブラジルということもあり、コマーシャルな仕事を課せられ、その本質が見えにくいのですが、もしよかったら、「everything I love」やナリーさんがお薦めのステップス・アヘッドの「Holding Together」などを聴いてみてはいかがでしょうか。両方とも凄く良いですよ。