ひとくちにジャズ・ファンと言っても、昨今のジャズの多様化に伴い、そのファンの趣向は様々で、十把一絡げで括れるほど単純ではありませんが、たとえば大雑把に二分法でジャズ・ファンを分類してみるならば、
50年代から60年代のジャズ・ジャイアントの作品を愛しみながら繰り返し繰り返し聴き込むことでジャズに対する理解を深化させていくことに喜びを見出すファン(A)に対して、常に新しい未知のジャズを求めて新譜を片っ端から買いまくるファン(a)。
スタンダードなジャズを好むファン(B)に対して、フリーやアヴァンギャルドなジャズを好むファン(b)。
欧州ジャズ・ファン(C)に対して、欧州ジャズなど米国ジャズの模倣に過ぎないと蔑視する米国ジャズ・ファン(c)。
録音の優れた作品をハイエンド・オーディオで聴くいことに音楽的快感を求めるファン(D)に対して、オーディオに金をかけるくらいなら一枚でも多くのディスクを買い漁った方が良いと思っているファン(d)。
ジャズは自分で演奏しなきゃ本当の素晴らしさを体感できないとひたすら練習に励むファン(E)に対して、自室に閉じこもり孤独にスピーカーの前で瞑想に耽るファン(e)。
そして、コンボ系を好んで聴くファン(F)に対して、ビックバンド系こそジャズと思っているファン(f)、などなど。
ちなみに僕の場合は、aBCdeF でしょうか。つまり、オーソドックスな欧州のコンボを中心に新譜を買い漁る、オーディオに無頓着な偏愛ジャズ・ファン、といったところです。さて、当然それぞれをクリア・カットに二分できるわけではなく、その共通集合帯も多分に存在するわけですが、そんな中、最後に挙げた“ コンボ系を好んで聴くファン(F)と、ビッグ・バンド系こそジャズと思っているファン(f) ”の集合の交わりは極めて少ないのではないでしょうか。時にはお互い排他的な態度で攻撃し合うこともあるくらいです。コンボ対ビッグ・バンドの戦いは永遠に続くのでしょうね。
さて、前回はコンボ派の僕にとってはブログ始まって以来、初のビッグバンド作品であるONJ (オルケストル・ナシオナル・ドゥ・ジャズ)を紹介しましたが、今回もビッグ・バンドの作品を聴いてみましょう。
スウェーデンが世界に誇るビッグ・バンド、Bohuslan Big Band (ボヒュスレーン・ビッグバンド)は、スウェーデン軍師団の軍楽隊をその起源に持つビッグバンドで、94年に設立されました。ベーシストの森泰人さんが在籍していることで日本でも注目されているBBでです。
BBBの前身であるウデバラ・ビッグバンドの作品を含め、現在までに計11作品を制作していますが、僕が所有しているのはそのうち5作品のみです。また、Spice of Life からルー・ソロフをソリストに迎えて制作されたガーシュインの『 Porgy & Bess 』というライブDVD作品があります。このDVDはおそらくBBBの唯一の映像作品だと思われますが、なにしろオーベ・インゲマールソン(ts)やピアニストが不在で、しかもヨーハン・ボリストルム(as)のソロがほとんどないため、個人的にはいまひとつの作品です。
僕が所有するのは、
1)『 Pegasos 』 Jukka Linkola & BBB ( 1994年 Imogena IGCD50 )
2)『 The Blue Pearl 』 lars Jansson & BBB ( 1996年 Phono Suecia PSCD97 )
3) 『 One Poem One Painting 』 lars Jansson & BBB ( 1998年 Imogena IGCD74 )
4)『 Faces 』 BBB ( 2000年 Imogena IGCD84 )
5)『 BBB Plays Zappa 』 BBB ( 2000年 Imogena IGCD89 )
6)『 Temenos 』 lars Jansson & BBB ( 2003年 Spice of Life SOL SC0005 )
以上、6タイトルです。
最新作は2005年にスウェーデンEMIのCapitol Records から発売された『 Fyra kungar och en dam 』 です。詳しくは BBBのOficial Web Site をご覧ください。
さて、今日はこの中から『 BBB Plays Zappa 』を紹介しましょう。タイトルが示す通り BBB がフランク・ザッパの楽曲ばかりをアレンジ、演奏した作品です。この企画はトロンボーンのニクラス・リュードが長年温めていたもので、友人のギタリストであるパトリック・エーンボーグと共同で実現させたものです。
僕は高校の頃からプログレ好きで、その流れでいつのまにかザッパを聴くようになった部類なので、かれこれ25年のザッパ・ファンになるのですが、ここで取り上げている楽曲をみると結構知らない曲もあったりします。決してヒット・パレード的な選曲ではないので、意外にザッパ・ファンでも未知の曲として新鮮に楽しめると思います。
「俺はザッパなんか聴いたことないからどうせ聴いても面白さがわかんねーや。」なんておっしゃるあなた。そんなことは絶対ありません。ザッパ好きにはたまらないお宝であり、ザッパを知らない人にとっては、本作を聴いたあと、本物のザッパを聴いてみたくなるような、そんな作品です。
ギターのパトリックは完全にロック・ギタリストです。強烈なヘヴィネスを発散させています。ザッパのヴォーカル物はちゃんとヴォーカリストが参加しています。このミア・ケンフ(?)というヴォーカリストも男気溢れるロッカーなんです。結局、ザッパよりもギターやヴォーカルがかなりヘヴィーです。ですから全体にロック色の強い作品に仕上がっています。そのあたりが好みも別れるところかもしれません。ディープ・パープル、レッド・ツェッペリンで少年時代を過ごした世代、ピンク・フロイド、キング・クリムゾンの好きな人、チェイス、タワー・オブ・パワーなどのブラス・ロックのファンの方々ならきっと気に入ってくれるはずです。
M-2 ≪Sinester Footwear≫ の壮大なプログレッシブ・ロック的アレンジは圧巻ですし、M-7 ≪Trouble Every day≫などは、原曲よりもむしろ本作の方が正直カッコいいです。
本作はコンテンポラリー・ビッグバンドの系譜からはちょっとはずれるかもしれませんが、一流のジャズメンがザッパに対する尊敬と敬愛の念を込めて制作された、元曲をも凌駕するほどの圧倒的なサウンドを楽しめるビッグバンド・ジャズの傑作として、BBB未聴者にぜひお薦めしたい作品です。
『 Pegasos 』 Jukka Linkola & BBB ( 1994年 Imogena IGCD50 )
やっぱりザッパのカヴァー物はどうも苦手だな~という方にはこれ。事実上のBBBとしての初録音盤。フィンランドの作曲家兼ピアニストであるユッカ・リンコラがBBBに書き下ろした作品集です。非常に魅力的なソリストが何人も登場します。