雨の日にはJAZZを聴きながら

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Thomas Clausen 『 Back To Basics 』

2007年08月08日 21時10分50秒 | JAZZ



2003年の『 Balacobaco 』以来、4年ぶりとなるデンマーク人ピアニスト、トーマス・クラウセンの新作。前作が“ Brazilian Quartet ”としての作品だったが、今回はデンマークの若手ベーシストとドラマーを起用しての最新レギュラー・トリオでの録音。クラウセンはデンマークでは有名なエヴァンス系のピアニストであるが、あまり日本では馴染みがなく、83年に Baystate から発売された木全氏のプロデュースによる 『 The Shadow of Bill Evans 』 ぐらいしか聴いたことがないという方も多いのではないか。しかも最近は録音も少なく、同国の俊英ピアニストであるカールステン・ダールやキャスパー・ヴィヨームの陰に隠れて、今一つ元気がない印象を受ける。元々それほど自己主張の強いピアニストではなかったので、現在の百花繚乱の欧州ピアニスト界にあって、かなり地味な存在になってしまったように思われる。そんなクラウセンであるが意外にプロとしての活動は長い。20歳の時に当時欧州に活動の場を移していたデクスター・ゴードンに見出され、プロとしての第一歩を踏み出した。パレ・ミッケルボルグのビック・バンドやスモール・コンボにデクスターと一緒に参加する一方、73年にはジャッキー・マクリーンの 『 Ode To Super 』 で初録音を果たしている。そんな中、78年には初めて自己のフュージョン・バンド“ Mirror ”を立ち上げ、79年にCBSに同名の作品を残している。80年には彼を高く評価していたケニー・ドリューの薦めでドリューの自己レーベル、Matrixから初リーダー作 『 Rain 』 を発表した。メンバーはベースがニールス・ペデルセンでドラムスがアージ・タンガードであった。さらに83年には同メンバーで 『 The Shadow of Bill Evans 』 (木全信氏とケニー・ドリューのプロデュース)を Baystate から発売した。80年代には数多くのエヴァンス・トリビュート作品が制作されたが、本作はそんな中にあって一際エレガントで美しい作品であった。ニールス・ペデルセン、アージ・タンガードと結成したトリオがクラウセンの“ 第一期ピアノ・トリオ ”とするならば、87年にアレックス・リール、マッド・ヴィンディングらと結成したトリオは云わば“ 第二期ピアノ・トリオ ”である。このトリオで88年には 『 幻のCD 廃盤・レア盤~ 』 にも紹介された 『 She Touched Me 』 を録音している。さらに90年には同メンバーで第一回JAZZPAR コンサートに参加。その際共演したゲイリー・バートンとは2作品を制作している。この頃にラーシュ・メラーの 『 Copenhagen Groove 』 ( 1988年 Stunt STUCD 18902)と 『 Lars Moller Quartet 』 ( 1989年 Stunt STUCD 19302) に参加している。特に後者でのクラウセンは緊張感のある素晴らしいプレーで秘かな愛聴盤である。90年代中ごろになると彼は新境地を開拓していった。当時共演したセルジオ・メンデスにデンマークやドイツに住むブラジル人ミュージシャンを紹介してもらったことを契機に、やがて自己のブラジリアン・カルテットを結成するに至った。このバンドでSTUNT に3作品を吹き込んでいる(1998年, 2000年, 2003年)。最終作では8人編成となっている。ただし、どの作品も匿名的な軟弱ブラジリアン・フュージョン風であり、あまり出来は良くない。そんなブラジル音楽に傾倒している最中に“ 第三期ピアノ・トリオ ”であるイェスパー・ルンゴー、ピーター・ダネモらと制作したのが2001年の『 My Favorite Things 』である。スタンダードとオリジナルをバランス良く取り上げ、叙情派ピアニスト健在ぶりを示した充実盤である。今回の新ピアノ・トリオでの録音は2006年8月にコペンハーゲンのSUN STUDIOで行われた。純粋なピアノ・トリオでの録音は『 My Favorite Things 』以来6年ぶりであり、クラウセンは長年待ち望んでいた夢の企画であったようだ。『 Back To Basics 』というタイトルからも分かるように、スタンダードやジャズメン・オリジナルが10曲、クラウセンのオリジナルが2曲という選曲。全体に繊細なハーモニーとタッチが印象的な美くしい作品ではあるが、やはりいま一つインパクトに欠ける。基本的に80年代からスタイルに大きな変化はないと思われる。ライナー・ノーツによると、同郷の若手リズム隊への信頼も厚く、今後もこのメンバーでライブ活動やレコーディングを行っていく予定であるらしい。


Thomas Clausen Trio  『 Psalm 』  1994年  Storyville  STCD 4185
決定的名盤がないクラウセンだが、本作はその中でも優秀作と言ってよい作品。程よい硬質感と繊細なエヴァンシズムが心地よい。リズム隊もさすがに巧い。こうなったら同メンバーで録音された『 She Touched Me 』 も聴いてみたくなる。何所からか再発されないものか。


Thomas Clausen & Severi Pyysalo  『 Turn Out The Stars 』  1998年 Storyville  STCD 4215
フィンランドのヴィブラフォン奏者、セヴェリ・ピーサロとのデュオ作品。チック・コリアとゲイリー・バートンの『 Crystal Silence 』 とは対極にあるピアノとヴィブラフォンの穏やかな会話。お互いのプレイの呼吸を感じながらゆっくり進行するインタープレイ。澄んだ空気感も新鮮で心地よい。おそらくクラウセンの作品中、最も数多くトレイに乗ったディスク。


Thomas Clausen Brazilian Quartet  『 Prelude to A Kiss 』  2000年 STUNT  STUCD 00142
総じて彼のブラシル関連作品は凡作ばかりだが、それでもどれか一枚と言ったら本作が良い。エリントンの≪ Satin Dall ≫と≪ Prelude to A Kiss ≫。ジョビンの2曲。あとはクラウセンのオリジナル。

  
左 : Lars Moller   『 Copenhagen Groove 』  1988年 Stunt STUCD 18902
右 : Lars Moller   『 Lars Moller Quartet 』  1989年 Stunt STUCD 19302
あくまでラーシュ・メラーを聴くための作品だが、クラウセンのアクレッシヴなサポートもなかなか聴きごたえがある。