雨の日にはJAZZを聴きながら

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Orchestre National de Jazz 『 la fete de l' eau 』

2007年08月18日 21時27分05秒 | Large Jazz Ensemble
最近の国語の教科書には夏目漱石や森鴎外らの作品は登場せず、それらに代わって俵万智や赤川次郎らの作品が掲載されているそうです。昔懐かし教科書の定番であった『こころ』や『高瀬舟』が消えて無くなるのはとっても寂しく思いますが、これも時代の流れなので仕方ないのでしょうね。

ところで今日、仕事帰りに最近発売された『 Jazzとびっきり新定番500+500 』( MOONKS著 大和書房 )を買ってきて、先程からビール片手に、「なんでガネーリン・トリオが定番なんだぁ~?」とか、「アムステルダム・ジャズ・クインテットが出てらぁ~、大河内さんはやっぱり流石だ!」なんて呟きながらパラパラ捲っていましたが、このMOONKSの方々も「古典的な定番はこの際飛び越えてしまおう! ジャズは世界中でどんどん進化している。8ビートや16ビートで育った人だからこそ楽しめる現在進行形の新定番。」と言い切っております。いつまでもチャーリー・パーカーだとかバド・パウエルだとかを、これからジャズを聴いてみようとという方々に勧めても絶対ジャズ人口は増えない。共感が得られない。御尤もであります。教科書の世界と同様、ジャズの世界にも新定番が求められているわけですね。

などと思いを巡らせながら唯今、先日買ってきたマリア・シュナイダー(Maria Schneider)の新作『 Sky Blue 』を聴いているのですが、これが実に素晴らしい。今までになくロマンチックで、まるで全ての物語が夢の中で進行していくかのようなふわふわとした聴き心地。特にM-1 ≪The Pretty Road ≫は絶品です。今までの彼女の作品の中では個人的にはベストです。

そんな彼女たちが身を置く≪ビッグ・バンド≫というカテゴリーでも確実に新定番は生れているのですね。≪ビッグ・バンド≫と聞いてはじめにデューク・エリントンやカウント・ベイシーの名前が頭に浮かぶようでは古い。現在進行形のコンテンポラリー・ビッグ・バンドを聴こう! という訳で、拙ブログ始まって以来、初となるビッグ・バンド作品の紹介です。

ONJ (オルケストル・ナシオナル・ドゥ・ジャズ)は、マリア・シュナイダー・オーケストラやボーヒュスレーン・ビッグ・バンドらと並んで、個人的に最も愛聴しているビッグ・バンドです。優雅で贅沢な気持ちに浸りたければマリア・シュナイダー。とにかく超絶技巧のビッグ・バンド・サウンドを聴きたければボーヒュスレーン・ビッグ・バンド。そして斬新で楽しいビッグ・バンドを聴きたいときは迷わずONJをお勧めします。

ONJは1986年に創設されたフランスの国営ジャズ・オーケストラです。国営というのは珍しいしですよね。デンマークのDRJO(デンマーク放送ジャズ・オーケストラ)も政府援助の団体ですが、それ以外もあるのでしょうか?僕は知りません。さすが芸術先進国として名を馳せるフランスです。日本も見習って“NHK Jazz Orchestra ”なんていうのを設立して欲しいものです。

で、このONJの面白いところは、クラシックの世界ではよくありますが、招いたミュージック・ディレクターに任期を持たせ、一定の期間ごとに交代させるという運営形態をとっている点です。今までにアントワン・エルヴェ、ローラン・キュニー、クロード・バルテレミーら計8人がディレクターの座に就いています。現在はヴィブラフォン奏者のフランク・トルティラーが就任しています。政府は≪金は出すが口は出さない≫方針で、任期中の音楽的方向性からメンバーの調達まで一切をディレクターに任せています。よって一口にONJとは言っても、一定の質は維持しながらもディレクターによって全く異なるジャズが聴こえてくるところがこのオーケストラの最大の魅力になっています。

そんな中、僕が最も気に入っているのが“バルテレミーのONJ ”なのです。バルテレミーは89年から91年に最初のディレクター就任を果たしていますが、2002年に再びディレクターに返り咲いています。最初の任期中には『 Clair 』、『 Jack-Line 』という2大傑作を世に送り出しています。今日紹介する『 la fete de l' eau 』は2004年に制作されたもので、前作に負けず劣らず優れた作品です。ほぼ全曲バルテレミーの作曲で、複雑な和声を駆使した高度な楽曲ばかり15曲。あまりの複雑な楽曲にバンドマンの悲鳴が聞こえてきそうです。以前、「ジャズ批評」99号にバルテレミーのインタビュー記事が掲載されていたのですが、その中で彼は「さあ皆さん、好きに演奏してくださいと言っても、そうぐちゃぐちゃにはならないでしょう。だったら私がぐちゃぐちゃに演奏されるように書けばよい(笑)。」と話していました。

バンドの編成は、2トランペット+3トロンボーン+2サックス+ギター+ドラム+ベース+ヴィブラフォン+アコーディオンのちょっと変わった12人編成。フランス人特有の諧謔さと近未来的SF感覚を併せ持ったアヴァンギャルドなサウンドで、普段コンボ・ジャズしか聴かないジャズ・ファン、あるいはビッグ・バンドは好きだけどスウィング、モダンしか聴かないファンにはかなり刺激的だと思います。機会がありましたら御一聴されてはいかがでしょうか。

余談ですが、そろそろディレクター交代の時期ですが、次期ディレクターはジャン・ピエール・コモあたりが来るんじゃないかと予想しているんですが、どうなるか楽しみです。

ONJのOfficial Web Site はこちら。全作品のジャケ付きディスコグラフィーとそれそれの作品の収録曲の中から数曲づつ視聴もできます。