雨の日にはJAZZを聴きながら

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Mike Stern 『 Who Let The Cats Out ? 』

2006年09月09日 23時02分39秒 | JAZZ
Mike Stern(マイク・スターン)の通算13作目になる新作『 Who Let The Cats Out ? 』です。彼の大ファンの僕はほとんどの作品を買ってきましたが,2001年の『 Voices 』が個人的には今ひとつだったせいもあり,2003年のESC移籍第一弾『 These Times 』は見送ったので,今回は6年ぶりのマイク・スターン聴きになるわけです。『 Voices 』はリチャード・ボナ色が強く,オーガニックな自然回帰路線でした。個人的にはボナが苦手なので(巧いのは認めますが),今回もボナ参加に少々不安はありましたが,一聴してそんな不安はぶっ飛びました。これは良い出来です。

アルバムとして統一色調感は薄いのですが,その分バラエティーに富んだ愉しいアルバムです。何しろ参加ミュージシャンが多彩です。ベーシストだけでも,リチャード・ボナ,クリス・ミン・ドーキー,アンソニー・ジャクソン,ミッシェル・ンデゲオチェロ,ビクター・ウッテンと5人も使い分けているし,ドラマーもキム・トンプソン,デイブ・ウェックルが参加。ベース・フリークにもドラマー・フリークにも受けが良いでしょうね。ミッシェル・ンデゲオチェロ(女性)はちょいマイナーですが,以前に当ブログでも取り上げていますのでこちらを参照してください。有名どころではジョシュアの新作『 Momentum 』に参加しています。グルーブ感を出すのがとっても巧いベーシストです。

M-1《 tumble home 》は90年代にマイクが参加していたステップス・アヘッドやボブ・バーグ=マイク・スターン・バンドあたりのファンク路線に近い楽曲ですが,ベースがクリス・ミン・ドーキーのアコ・ベを弾いているあたりが昔と違うのね。

M-3 《 good question 》はラテン調の4ビート。ボナのベース・ソロに合わせての完全ユニゾンのスキャットは流石。彼にしかできない芸当です。脱帽。

M-4 《 language 》はまさにパット・メセニー風,アメリカ大陸を想起させる雄大で爽やかな曲です。師匠へのオマージュ的サウンドですね。『 Voices 』路線の継承がうかがわれます。

M-5 《 we’re with you 》はアコギで奏でる美しいバラード。あまりマイクのリーダー作を聴かずに,ステップス・アヘッドやマイルス・バンドでの彼の演奏しか耳にしたことのないファンは,彼がこんな美しいバラードを作曲,演奏できることに驚くことでしょう。ハーモニカ奏者のグレゴリー・マレット(グレゴワール・マレー?)がテーマだけユニゾンで参加しています。グレゴリーはパット・メセニーの『 The Way Up 』でfeatureされていたし,以前当ブログでもちょっとだけ書いたカサンドラ・ウイルソンの最新作『 Thunderbird 』にも1曲だけ参加していました。スパイス的に使われることの多いミュージシャンですね。トゥーツ・シールマンズの唯一のフォロワーですかね。

M-6 《 Leni goes shopping 》はスタンダード《 beautiful love 》のコード進行をパックて作った曲かな。ソロになると,もろ《 beautiful love 》。それにしても今回のアルバムは4ビート系の曲が多いです。よく言えば成熟した芳醇なマイク・スターン。ようは彼も年老いたということか。

M-7 《 roll with it 》は素直なファンク・ナンバー。やんちゃなウッテン君のスラッピングがかっこいいー。でもちょっと抑え気味。それでも軽~くマーカス・ミラーを飛び越えています。それからマイクが以前に競演してきたデヴィッド・サンボーン,マイケル・ブレッカー,ボブ・バーグらに比べるとちょっと個性に欠けますが,ここでソロとってるボブ・マラック(ts)なかなか熱い吹き手です。好感。

M-8 《 Texas 》はスライド・ギターにマレのハーモニカで奏でるブルージーな楽曲。マイクお得意の常套句が炸裂です。コーラス,ディレイをかけたクリーン・トーンで緩やかに始まり,途中からディストーションのつまみを一捻り。クウィーンとチョーキングからハーモニックス。両足揃えておしっこ我慢のポーズでリズムをとるマイクの姿が目に浮かびますね~。でもここでも抑え気味のソロ。

M-9 《 who let the cats out? 》はブレッカー・ブラーザーズ・ライクな乗りの良い16ビート。こういう曲が今回は少ないな~。ちょっと寂しいです。怒涛のクラマチック・ライン。正確な16分のフル・ピッキングのフレーズには開いた口が塞がりません。

M-11 《 blue runway 》で初めてアンソニー・ジャクソン登場。でもあまり目立つラインは刻んでいません。曲としても今ひとつ。でもマイクのソロはギンギンのロック。ピック・スクラッチまで飛び出し,派手な幕引き。

ところで,マイクの傑作ってどれでしょうかね? 『 Odds or evens 』なんか良く出来ていたと思いますし,『 Give and Take 』や『 Time in Place 』も愛聴盤です。でも超私的愛聴盤は何と言っても86年の『 Upside Downside 』です。マイク・スターンと言えば《 Upside Downside 》。あの曲がマイクそのものです。1990年に復活CTIレーベルのクリード・テイラー・プロデュースによるユニット,Chromaが来日した際のアルバムで『 Music on The Edge 』というアルバムがあります。これはレーザー・ディスクにもなっていますが,このLDが素晴らしく,マイク・スターン,デニ・チェン,ジム・ベアード,マーク・イーガン,ランディー・ブレッカー,そしてボブ・バーグと,当時のNYのコンテンポラリー・ジャズの名手達を揃えた豪華ユニットでした。そのLDの1曲目がこの《 Upside Downside 》なんですね。何度聴いても鳥肌物の名演です。この『 Upside Downside 』は捨て曲なしの名曲ぞろいなんですが, M-4 《 mood swings 》なども複雑高速なビバップ系のテーマをボブ・バーグとユニゾンで弾くのですが,これは凄い。こいつは見た目はロッカーだけど,本当はやっぱりバッパーなんだと再認識させられる素晴らしい楽曲です。ちなみにベースはジャコ,ドラムはスティーブ・ジョーダンです。

最後にマイクの唯一の駄作を一枚。多分,買った人は誰しも感じると思うのですが,2004年に再発されて誰でも聴けるようになった幻のファースト,『 Fat Time 』(1981)は,ぜんぜん面白くありません。マイクの個性がまだ開花していない,どんなジャズをやりたいかの方向性が曖昧な時期の作品で,ほとんどデビッド・サンボーンのリーダー作のようです。