イタリアのスローフードの祭典「サローネ・デル・グスト」に来ています。
無事にセミナーを終えることができました。
セミナーでは70人の席が満席になり、立ち見の方もいるほど。
聞くと7月にはチケットが完売していたそうです。
日本の発酵文化に対する興味の深さを感じます。
イタリアはもちろん、フランス・スイス・カナダ・コスタリカ・アメリカなどなどいろんな国の方々がお集まりくださいました。
壇上には右から
ジャコモ・モヨーリさん(スローフード協会の元副会長でANAの機内誌「翼の王国」にイタリアワインの連載もする日本通)
石田さん(日本スローフード協会の副会長。通訳)
寺田優
なかじ
keikoさん(フランス在住で今回のセミナーのコーディネーター)
準備したお酒は
・醍醐のしずく
・五人娘
・懐古酒
・発芽玄米酒むすひ
の4種類です。
日本の発酵食品としてお出ししたのが
・塩麹で柔らかくした鹿肉の粕煮
・鮎の熟れ鮓
・奈良漬け
・雲仙こぶ高菜の高菜漬け
・イタリア野菜の味噌ドレッシングかけ
以下ご挨拶の原稿です。時間の関係で全文を読み上げることはできなかったのですが、このセミナーを通して世界中にお伝えしたかったことです。
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はじめまして。
只今ご紹介にあずかりました寺田本家の寺田優と申します。
本日はこのような貴重な機会を用意していただきありがとうございます。そしてたくさんの方にお集まりいただき本当に感謝しております。
私どもは東京の隣、千葉で代々お酒造りをする酒蔵です。いまお酒造りを初めて340年になろうとしています。そして自分は24代目の当主としてお酒造りをさせていただいております。
私たちは自然に沿い、全ての原料を無農薬のものを使い、野生の稲麹を使い、酵母無添加で昔ながらの手作りでお酒造りをしている酒蔵です。
そして年間で15万ℓほどのお酒を作っています
私たちにとって発酵とは生き方です。
皆さんにとってワイン・チーズ・パンが欠かせないように、私たちにとって酒・味噌・醤油などの発酵食品は欠かせません。
そしてそのどれもが微生物の働きであることからもわかるように、私たちは微生物無しでは生きていけないのです。
何と言っても、人間のお腹の中には微生物が100兆個・数100種類も生きていると言われています。
つまり私たちは微生物のおかげで生かされているのです。
日本酒を作る工程でも味噌・醤油を作る工程でも、1種類だけの微生物が働いてできるということはなく、多様な微生物がお互いに共生し協力し合ってお酒・味噌・醤油を作り上げてまいります。たくさんの微生物が関わってできたものが、味わいの面でも栄養的な面でも素晴らしい発酵食品ができあがります。違いを乗り越えて共生する微生物の有り様こそ、この世界中の人が学ぶべき姿ではないでしょうか?
昨年の東日本大震災、津波・福島原発事故ではいまでもとても困難な状況にあります。
ただ、その放射能についても発酵食品が注目されております。
広島・長崎のときに爆心地近くに住んでいた医者が塩分の濃い味噌汁を多く食べることをすすめ、患者・職員がだれも被爆しなかったという報告があります。
今回の福島の事故をうけ、たくさんの研究が発表され、発酵食品(特に味噌)を食べることが重金属である放射性物質を体外に排出する働きを強めるとか、放射能の影響で体内に発生する活性酸素を発酵食品を食べることで抑える働きなどがわかってきているところです。これらはまだ研究の途中なのですが、発酵食品を食べることで免疫力が高まることはよく知られており、食べ物から体質を変え、病気にならない体作りをすることが大切だということは間違いありません。
発酵食を見直すということは、今の暮らし方を見直しほんとうに豊かな暮らしを取り戻すということにもつながります。
昔から発酵食品は家庭の中で作られ、お母さんの手に住む菌と共に発酵して、それが「お袋の味」になっていきました。
そしてできた発酵食品を食べ菌を分けあうことが、家族の絆を作り、健康を育んできたのだと思います。
そのおかげで日本は世界に誇る長寿の国となったのです。
今はしかし、日本の食卓から発酵食品が消え、加工食品の隆盛やさまざまな化学薬品をつかった即席製法のモノがあふれ、大人もそして子どもたちも本物の味を知らずに過ごしています。
そこで私たちはまず自分たちの住む小さな地域から変わっていこうと考えました。
子どもたちと一緒に発酵食作りを体験し食べ、お年寄りの知恵を受け継ぎ、地域の中で作られたものを地域の中で消費する、そうして地域の知恵やお金に換算できない豊かさを受け継いでいければと思っております。それが発酵の里です。
私たちはお酒を作ることを生業としますが、地域の環境が守られ、微生物が豊かであるということが持続する大事な条件です。
まず身の回りの小さな地域から変えていくこと、それがいずれ拡がり、それぞれの地域が豊かになり、戦争や貧困のない豊かな幸せあふれる世界へと変えていく力となるのではないかと信じております。
微生物に感謝し、自然に沿うところから私たちのお酒造りは始まります。
そして微生物に感謝を捧げる意を込めて、昔から伝わる酒造り唄を唄いながらお酒を作っております。
その酒造り唄をご披露させていただきます。
(酒造り唄へ)