matta

街の散歩…ひとりあるき

4-05 轉輪王の位を践みたまう太子にあらず、出家学道して…『釋迦尊御一代記圖會』巻之2

2024年08月12日 | 宗教

九人まで大同小異はあれども、皆、妊娠にあらず、是血病なり。但し妖邪の障碍(しょうげ)
ありなんと云いける。唯、百人目に一人野老翁ありけるが、髯髪(しゅはつ)悉く皓白(こくはく)にて雪を
被るが如く面に皺の波をたゝみ腰は弓の如く屈み蔾(あかざ)の杖にすがりて后妃の御前(おんまえ)に進
み相貌を熟々(つくづく)と見て潸然と(さんぜん)と涙を流し左右(とろう)の詞も発せず噎(むせ)び入りければ
烏将軍大いに訝り咎めて曰く。先より九十九人の相者看相して各々其のおもう所を述べるに
翁一人左右の考文(こうもん)をも告(もうさ)ず、泪にのみむせぶは頗る竒恠(きかい)なり。所存のほどを疾く
告(もうせ)よと叱したるに翁ようよう泪を拭いて云いけるよう。ご不審の旨御理(ことわり)にそうろう。
去りながら九十九人の相者いまだ玉渕(ぎょくえん)を窺わず。焉(いずくん)ぞ驪竜(りりゅう)の蟠(わだかまる)事を
しらん。翁尊夫人玉貌を相し奉るに御患病なんどはつゆほども在(ましま)まず。是正しく御懐妊にて
しかも三十二相八十種好を備え、徳天地に等しき皇太子にて在(ましま)せり。唯、恨むらくは
邪魅悪霊の障碍(しょうげ)に依り御誕生の遅き事をと申す。亦、雨々(さめざめ)とぞ泣きにける。
摩耶夫人、翁の詞を聞きたまいて歓喜の色顕れ、この翁こそ天が下の博識よと最(いと)
嬉しく思し召せども猶何事も曰(のたま)わず、烏将軍も御懐妊と聞て心勇みながら亦
難じて曰く。是まで名誉の典医皆御患病(いかづき)と言い、今また多くの相者も病の

所為(わざ)と考え告知(もう)すに、翁一人、御懐妊と申す。殊に三十二相八十種好具束せし皇太子
と申すには證跡(しょうせき)ありやと問う。翁、答えて曰く、老夫、不敏にはそうらへども后妃を観相
せしは天聞通と申して普通の相者の窺はざる秘法にて、九曜七曜廿八宿十干
十二支三十六禽の星を砲當し、天地二門を勘考し五龍七道五陰七儀五位
七徳を分けて、四神相應の理を考み六明大有三質十二運を配列して、陰陽男女の位を見定め
そうらへば、拳を以て大地を撃ちはづしそうらへとも、考文聊(わず)かも違いそうらはじと曰う。
烏将軍また曰く、汝、左程看相に達し、皇太子胎妊たまうと見定むる上は、上一人より下(しも)
万人までの幸福なれば慶賀こそ申すべきに、却って忌まわしく泪を催すは是如(これいかん)何と
咎む。翁また曰さんそうろうは、下官(やつがれ)老いさらばいて忍ばんとすれど甲斐なく、貴人の
御前にて不吉の泪流しそうらうは恐れてもなお余り有り、然りながらその理を言上し奉らん。
前(さき)に申せし如く尊夫人の胎内に孕(やどら)せたまう玉の如き皇太子にて、刀剣水火の上に
産落としたまうとも、敢えて御命に障りなく降誕したまうべし。然れども四天下
に王として轉輪王の位を践みたまう太子にあらず。必然(かならず)出家学道して妙覚無為の
法位に昇り一切種知を成し、清浄法輪を傳じ天人俱に利益をこうむり
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 03-04 御腹の長大なるは定疾... | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

宗教」カテゴリの最新記事