別宅の本棚から発掘した
『猛スピードで母は』を読んでいる。
『サイドカーに犬』『猛スピードで母は』
の2本が収録されているが、
今日の隙間時間で
『サイドカーに犬』をちょうど読み終わったところである。
最後のほうで洋子さんが「お別れだね」
と主人公の薫に語るシーンがあるが、
ここで全身が震えた。
というのは、母が胃瘻手術して入院する少し前、
「やっぱり特養に入ることに決めた……お別れだね」
と言ったのを思い出したからだ。
そして実際、
コロナごっこに付き合わされて、入院以来、
一度もまともに母に会えていない。
「おわかれ」。
たった四文字の日本語であるが、
これほどに含蓄のある単語が他にあるだろうか……。
使い方によってはこの単語だけで
誰かの魂を根底から揺さぶり、
マラリアに罹ったかのごとく震えさせることが可能だが、
使い方を間違えると、オヤジギャグばりに
白けた寒い表現に成り下がるという諸刃の剣でもある。
芥川賞受賞作としては非常に読みやすいし、
テーマもわかりやすい。
中高生にもお勧めできそうである。