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アオテンマ・2~雑木林1

 片倉町の雑木林に生育している「アオテンマ(青天麻)」。ラン科オニノヤガラ属の菌従属栄養植物で草丈は70~80センチ。オニノヤガラの変種で葉は無く花や茎が緑色になる。“天麻”とはオニノヤガラの漢名でその塊茎を干して漢方薬として用いている。
 菌従属栄養植物とは生きるために必要な栄養を光合成に変わって共生する菌に依存する植物で、もともとは光合成を行う独立栄養植物であったものが、光合成を止めていく“進化”が起こった。その過程で、葉緑素の喪失、根や地下茎の変化、色素体ゲノムの退化、普通葉の退化、種子の微細化、菌根菌や送粉昆虫など他の生物との共生関係など実に多様に変化していった。アオテンマの緑色は葉緑素によるものと思われるが先祖返りのひとつの姿なのかも知れない。
 地球上の植物の約80%の種は地下の根や茎で菌類と共生しており(菌根共生)、光合成によって稼いだ炭素の一部を共生菌に与え、菌は植物の生存に欠かすことのできない窒素とリンを植物に与える相利共生が成り立っている。しかし光合成を止めた菌従属栄養植物は自分で栄養を作らないので根も葉も要らず不要な器官が無くなって奇妙な姿になっていった。
 菌従属栄養植物は独立栄養植物からいきなり現れたのではなく、光合成を行いながら菌からも栄養を取るという部分的菌従属栄養(混合栄養)という過程を経て変化している。例えばシュンランは青々とした葉を持ち正常な光合成能力を持つが、個体によっては体内の60%程度の炭素は共生する菌から奪っていることがわかっている。
 菌従属栄養植物は独立栄養植物よりずっと多様な菌類のグループと共生関係を結んでいる。ナラタケ属は植物にとっては凶悪な植物病原菌となり、ホウライタケ科は落葉分解菌で、独立栄養植物はこのような菌を避け4億年かけて築き上げた菌とだけ共生関係を作っているが、菌従属栄養植物はリスクを冒しつつ魅力的なパートナーを求めた。オニノヤガラはナラタケと共生するが、これは生育が進んでからのことで、発芽から実生の初期ではクヌギタケ属の菌としか共生しない。最強の植物病原菌のナラタケはひ弱な実生のパートナーにはならないのだ。
 菌従属栄養植物は菌に寄生することで他の競争相手の少ない暗い林床でも生存可能になった。地上でストレスを受けた際に、翌年は地上部に展開せずに地下にとどまり、菌から十分に炭素源を得たうえで再度地上に現れる。地中で休眠中でも菌類から炭素源を補給できるので休眠コストが掛からず生存できる。
 無葉緑素植物になるためには、菌からの養分略奪を可能にする能力のみならず、気孔の退化、葉の退化、開花から結実までの期間の短縮、非開花時期の休眠、保護色、繁殖様式の変化など様々な適応が必要であり、これらの適応を同時に遂げることが難しいため、部分的菌従属栄養植物に比べ葉緑素を失った菌従属栄養植物は少ない。
 しかし世界の菌従属栄養植物の種数はこの20年間で急増して880種ほどになり、日本でも新種が次々に発見されている。なぜこれまで多くの種が見逃されてきたかというと、菌従属栄養植物は開花期、果実期しか地上部に出ていないことが最大の理由であり、例えばタシロランは地上部があるのは1年のうちのせいぜい3週間程度に過ぎない。研究が進めばこれからも新しい菌従属栄養植物の発見が続くのだろう。
 ちなみに当ブログで取り上げた菌従属栄養植物ではアキザキヤツシロランアキノギンリョウソウキバナノショウキランギンリョウソウクロヤツシロランサガミランシャクジョウソウシロテンマツチアケビトサノクロムヨウランマヤランムヨウランなどがある。
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オニノヤガラ・6~林立

 小宮公園の林内のあちらこちらに出現している「オニノヤガラ(鬼之矢柄)」。ラン科オニノヤガラ属の多年草で自身では葉緑素を持たずナラタケ属の菌糸と共生している菌従属栄養植物。ここでは8本のオニノヤガラが林立していた。草丈は60~70センチだが一番大きいのは1メートル近くはありそうだ。
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イワガラミ・5~着生

 相模原麻溝公園でコナラの枯れ木に着生している「イワガラミ(岩絡み)」。アジサイ科(←ユキノシタ科)イワガラミ属のつる性落葉木本で北海道~九州の山地に生育し幹や枝から気根を出して周囲の岩や高木に絡みついて成長する。花期は5~7月で枝先に直径10~15センチの散房花序を出し周りに数枚の純白の装飾花を付ける。当地の緑地や高尾山系では地を這ったり高木に絡む葉を良く見るが花を付けている株を見たことが無い。ここに咲くのは去年ブログ読者からの情報で知り6月上旬に開花を見ることができたが、今年は既に花は終わっていた。今年はどの花も早い。
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