電車に乗るとなぜだか先ほどと同じで、席には黒いカラスと目を腫らしたウサギが乗っていました。
それからごっとしごっとし列車は走り出しました。
川のほとりを走り抜け、深い谷のトンネルを過ぎた頃、アイガーは黒いカラスに言いました。
「やぁ、カラスさん。ここで会ったのも何かの縁です。あなたはどこへ行くおつもりなのですか。」
黒いカラスは言いました。
「山のてっぺんの蛇城までですよ。そこへ毎日その日一番きれいに咲いた花を持って行くのです。ほら、今日はすみれです。谷の底に咲いておりました。」
「ふうん、でもあなたはホラ吹きカラスだって有名ですよ。あの蛇の王さまがおっしゃってたって。なにしろ蛇の王さまはこの辺りじゃとってもかしこくて真面目だというのだから。」メンヒは言いました。
「そうですかそうですか。」黒いカラスは嫌な顔ひとつせず言いました。
てっぺん城の駅でメンヒとアイガーは黒いカラスについて降りることにしました。
ごつごつした岩の駅を降りるとてっぺん城ではもう蛇の王さまの今日の演説が始まっておりました。
「えー、大衆の者々結構結構。今日まずは山の経済云々カンヌン。」蛇の王さまはしゃべり続けます。
そこへ、あわてて黒いカラスが谷のすみれを脇からさっと王へ渡しました。どうやらその日の花を持って話すのが王さまのやり方のようでした。
「このようにして本日も谷底に咲くすみれがきれいに咲いているわけであって、民の者たちもこれにみならって精をだすように。」
野ネズミやたぬきたちの歓声がどっとわき上がり、その中を王は城の中へと姿を消しました。
そしてつまらなそうに谷底のすみれをふんと投げ捨てうろこのついた腹でへっつぶして黒いカラスの前を通ってゆきました。
外では未だ王さま!と叫ぶ声がやみません。
しばらくして黒いカラスはころころと岩の城に涙を落とし谷のすみれを拾いました。
メンヒとアイガーも散らばった紫の花を拾っては黒いカラスに手渡しました。
遠くから再び列車の汽笛が響きました。しらじらとてっぺん城に明かりが差し込んできましたので、メンヒとアイガーは急いで列車に乗り込みました。
二人とももう黒いカラスのことをホラ吹きカラスだと呼びませんでした。
正面の席に座ったウサギは「優しいホラ吹きカラスのお話し」を読みながらいまだ目を真っ赤に晴らしておりました。
辺りは夜明けの陽が差し込み始めました。
おわり