古い赤煉瓦で組まれた電灯のない細く背の低いトンネルを抜けると黒い野道が真っすぐと続いている。
そのトンネルの中でさらさらと音が響くのは足下に敷いてある石畳の下に一本の細い川が流れているからで、ところどころ隙間のあるその石畳の合間からゆるやかに流れる水の音が誰知ることなく変わらずにその空間で反響し続けているのである。
トンネルを抜け、野道を歩き始めるとまもなく右に石を積み上げて作られた井戸がある。
立ち寄り、覗き込むことはないが確かにその井戸の中には何かの種類の魚がいる気配がある。
また少し先に進むと左にはきつねに追われた野うさぎが逃げ込むのにはかっこうの膝ほどまでの高さのいばらの原が広がっていた。
きっとこの夜の間の安心を手に入れる為に野うさぎの群れがこのいばらの下で身を寄せているには違いない。
きつねはそこにうさぎがいるのをよく知っている。そして決して侵入できないこともまたよく知っているため、そのいばらの野を脇から囲む山の中腹からうさぎの群れを見下げ、真夜中にぎぃぎぃと鳴くのだ。
その先にはまた古いトンネルがある。
今度は赤煉瓦ではなく打ちっぱなしのコンクリートで固められている四角い形をした天井の高いトンネルだ。
やはりここにも電灯はついておらず、目をいくら凝らしてもいよいよ視界には閉じきった押し入れの中で見るあの黒以外の色はなく、まるで目を閉じて歩いているようなのである。
まだその足下に流れる小さな川の流れの音だけは聞こえている。
いったい四角だったのかどうだったのかさえ、トンネルの中だったのか実は夜空の下だったのかもわからないその静かな空間を抜けたことを風が身にぶつかることで気づく。
そこには微かに風があり、星を食べに行く虫たちがちかちかと飛んでいた。
薄桃色の背の高い花がいくつも咲いていた。