オーディオ彷徨録~JBL4331AからALTEC620A~

今までのオーディオの改良や音楽の遍歴に、今後の改善も紹介。いい音に繋がる方法を色々模索したことや、好きな音楽を紹介する。

チェット・ベイカーの~シングス/ブルーに生まれついて~

2017-02-09 11:59:10 | ジャズ
 今回は、チェット・ベイカーの~シングス/ブルーに生まれついて~についてのお話をします。
 順番としては、1.チェットベイカーについて、2.ブルーに生まれついて、3.”チェット・ベイカー・シングス”、4.”イン・ニューヨーク”の順にお話します。
 ■1.アバウト チェットベイカー
 先ずは、ウィッキペディアから一部追加して経歴を紹介します。
 ”チェット・ベイカー(Chet Baker、本名Chesney Henry Baker Jr.、1929年12月23日 - 1988年5月13日)は、ジャズミュージシャン。ウエストコースト・ジャズの代表的トランペット奏者であり、ヴォーカリストでもある。
 オクラホマ州イェール生まれ。エル・カミノ・カレッジ音楽専攻。トランペットの実力はチャーリー・パーカーにも認められ、1952年から1953年にかけて彼のバンドでも活躍した。その時の演奏は「The Bird You Never Heard (Stash)」で聴くことが出来る。また、その中性的なヴォーカルも人気があり、1954年にレコーディングされた『チェット・ベイカー・シングス』に収録の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はチェットの代表曲の1つであり、同楽曲の代表的カヴァーの1つでもある。このチェットの歌い方にジョアン・ジルベルトが影響され、ボサノヴァ誕生の一因となったと言われている。
 1950年代半ばにおいては時代の寵児とも目され、マイルス・デイヴィスをも凌ぐ人気を誇っていたが[1]、1950年代後半から1960年代にかけてヘロインやマリファナに耽溺し、ドラッグ絡みのトラブルを頻繁に起こす。米国や公演先のイタリアなど複数の国で逮捕され、短期間であるが服役もしている。1970年にはドラッグが原因の喧嘩で前歯を折られ、演奏活動の休業を余儀なくされた。この間には生活保護を受け、ガソリンスタンドで働いていたという。 1973年にはディジー・ガレスピーの尽力により復活を果たし、1975年頃より活動拠点を主にヨーロッパに移した。
 1986年3月に初来日、翌1987年にも再来日した。また、1987年から1988年にかけて、ファッション・フォトグラファーのブルース・ウェーバーがチェットの自伝的ドキュメント映画「Let's Get Lost」を撮影していた。
 1988年5月13日、オランダアムステルダムのホテルの窓から転落死、原因は定かではない。
 ドキュメンタリー映画「Let's Get Lost」は彼の死後まもなく封切られ、アカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされた。”以上ウィッキペディアから。

 しかし、実際のベイカーは、良い時も、悪い時も、人間的にはどうしようもない人だったようです。80年代に実際に彼のマネージャーをしていた女性が試写に来ていてインタビューで”大嫌いでした”と言ったとか。相当苦労されたようですが、この映画を見て”ちょっと共感できた”そうなんですが。また、'60年代に実際にあった彼の映画を自演で作る話が出て、撮影の最中に前歯を折られる事件があり、映画は頓挫。プロデューサーのラウレンスがチェットに多額の前払い金を支払っているにも関わらず、チェットは ”ラウレンスの詐欺師!”と罵ったとか。世間知らずの我儘アーチストといっても程があります。この映画は、そういう面はオミットしているが、自由にエピソードを抜いて、それを好きなようにパッチワーキングしてベイカーを美化し、架空の理想的な女性をパートナーに仕立て、その面ではファンタジーにしている、というか無毒化している。ベイカーという人は、若い頃の甘い声のハンサムな白人男性と後年のどうしようもない金をせびり続けるジャンキーおやじ=悪魔に魂を売ってしまう男の両面を持つ、彼はあまりに美しすぎて、あまりにグロテスクすぎるので、人をもの凄い力で魅了する。

 ■2)”ブルーに生まれついて” (BORN TO BE BLUE)を見て
  もう随分、数年映画を見ていない。私は、1100円で映画が見れるので行こう、ということで、ジャズの映画はあるかなと見ていたら、”ブルーに生まれついて”というのがシネ・リーブル梅田でやっているのを見つけ、先日スカイビル3Fに行って来た。余り期待はしていなかったが、予想外に良かった。
 【要約】
 2016年11月から日本で公開されたチェット・ベイカーの苦闘の時代を描いた「ブルーに生まれついて」は俳優のイーサン・ホークがベイカー役を好演し、企画・脚本にも参加し、表題曲も映画内でホークが歌った。又1970年~80年代に実際にチェット・ベイカーとコラボしたベーシストとドラマーの方にサウンドトラックで参加してもらったそうです。
 【ストーリー】
 1950年代半ば、時代の寵児となった白人ジャズトランペッター、チェット・ベイカー。ウェストコースト・ジャズを代表する「天才」ミュージシャンでありながら、ドラッグに溺れやがてはジャズシーンの没落とともに一線から遠ざかっていく。ドラッグを理由にギャングから襲われ、歯を失い、それでもどん底から這い上がろうとするチェット・ベイカーの苦闘をイーサン・ホークが熱演する。麻薬に溺れどん底の日々を送っているが、自身の人生を描いた映画の出演で一人の女性と出会ったことをきっかけに、愛と償いの機会を模索する・・・
 【感想】
 見終わった直後は、壮絶な生涯を送った天才トランペッターの以下のようなブルー(*1)を表現したかったんだなと感動した。
 *1)・再起までの苦難を支えてくれた恋人と別れねばならなかったブルー
    ・麻薬から逃れようとして苦しんだが、結局再起のステージでも薬に頼った自分を情けなく思うブルー
    ・麻薬の支払いを迫ったマフィアからトランペッターの命とも言える前歯を折られた自分に対するブルー
    ・ジャズに魅せられ黒人に成りたかったが、成れないブルー

 
 破滅という結末があるから懸命に光を探そうとして探せないチェットの姿がたまらなく哀しかった。 自分を愛し支えてくれる人や家族を失ってでも手に入れたい栄光が彼が探していた「光」だったのだろうか。 イーサン・ホークの真に迫る演技と歌が素晴らしい。
 しかし、この映画は、チェットの個人的なブルーを描きたかったのだろうか。実はイーサン・ホークには、本作の脚本を受ける以前に当時出演していた映画のリチャード・リンクレイター監督とチェット・ベイカーの映画化企画を立ち上げていたという経緯があった。しかしその企画自体が頓挫してしまったため、新たに別の監督との企画に取り組み実現させた。今作を演じる思いは並々ならぬものがあるようなのです。そう考えると、表題のブルーの意味は、以下かもしれない。
 昔、アフリカ大陸から奴隷としてアメリカへ連れて来られた黒人がいた。自分たちに理不尽な苦痛を与える白人達が崇める神に、自らの苦境の救済を願い、すがりついた。そしてその際にこぼれ落ちた血と涙のような音階が「ブルーノート」であり、ジャズやブルースの始まりであり、有名なジャズのレーベル名にもなった。そもそも「ブルーノート」とは、彼らの矛盾と葛藤そのものだった。そしてそれはまさにチェット・ベイカーのジャズを巡る人生そのものとも言えるし、アフリカから連れて来られた黒人やその後に続く子孫全部の抱えるブルーに繋がるのではないかとフト思った。

 ■3)チェット・ベイカー・シングス
 昔FM放送を聴いていた時に、私の大好きな”バット・ノット・フォー・ミー”と”アイ・フォール・イン・ラブ・ツー・イージリー”をアンニュイなトーンでボサノバっぽく唄う歌手にであった。それが、チェット・ベイカーであった。入手後聴いてみると、何ともいえない、中性的な声(上記映画中、元バンジョー弾きの父親から”何で女みたいな声で歌うんだ?”と非難されていた)で、退廃的で、アンニュイであるが、味のある唄い方をしており、全曲良いなと思った。後に、ボサノバの誕生に影響したことを知った。以下右が、チェット・ベイカー・シングス

 ”バット・ノット・フォー・ミー”は、シナトラや、スリーピーもいいのですが、チェットが一番フィットしています。”アイ・フォール・イン・ラブ・ツー・イージリー”も同様、ページ2の市川さんのピアノが素敵なんですが、チェットの唄も哀愁を帯びたアンニュイ感が堪りません。歌詞の意味を知って聴くのと、そうでないのとは雲泥の差があるので、簡単に曲の歌詞の意味を書いておきます。

1.マイファニーバレンタイン
 恋人のことを始めは「不格好で頭が悪い」と言うのですが、最後は「そんなあなたが大好き」と愛情たっぷりに言葉と気持ちは裏返しで言っていることが分かります。
2.ザット・オールド・フィーリング⇒これ元気が無い時に聴くといいです。
 なんだ、それだったらやり直したら良いじゃないか。どんな事情か知らないけど、本当は心の底で大切に思ってたってことでしょ? そのことに気づいた。ちゃんと目を見たでしょ? そこに同じ残り火が灯ってたんじゃないかな。だから、懐かしく思えた。相手もきっと今頃、別れたことを後悔してると思うよ。さあ勇気を出して。何度でも仲直りしたら良いじゃない? 
3.ライクサムワンインラブ
 最近、何となく星を見つめていたりするし、羽がついたみたいにふらふら歩いているようだ。そしてあなたに見られると手袋のようにへなへなになってまるで恋でもしているようだと思う。
4.マイ・バディ
 あなたが離れてから夜は長いですが、 私はあなたを一日を通して考えるのですが、ねえ、あんた!(あんた以外には)どんな奴も、本物ではないんだ。あなたの声、あなたの手の感触、私はあなたを恋しく思う。
5.IT'S ALWAYS YOU
 君がどこにいようと君は僕の近くにいるのさ、君は思い切り僕に不誠実でいようとするのに、 おかしいね、僕が恋するのはいつだって、いつも君なのさ。
6.someone to watch over me
 私の心に描いている人をさがしているの。私は森の中で迷子になった子羊。私を見守ってくれる羊飼いはどこなの?私にはいつも見守ってくれる人が必要なの。と、私を見守ってくれる、いまだ見ぬ理想の相手が早く現れくれることを想って歌っています。
7.But Not For Me (George and Ira Gershwin(1930))
 巷にあふれた愛の歌……でも私のものじゃない、空に輝く沢山の幸運の星……でも私のものじゃない、馬鹿みたいに恋にハマって、コレが結末よ。恋はゲームって知っているわ。だけど、頭の中はグチャグチャ。友達が必要ってこんな時なのね。一生私は結ばれない。
8.Look For The Silver Lining ⇒歌詞が大好きです。
 Lining とは服などの裏地のことです。例えば a silk lining of a coat  はコートの絹の裏地という意味。Every cloud has a silver liningというイギリスの諺。どの雲も裏側は銀色に光っている となります。転じて、どんな悪いことにも良い半面がある という意味になるのです。歌詞は、胸いっぱいの楽しみと喜びはいつでも哀しみと争いを打ち消してくれる、だからいつでも銀色の裏地を探して、人生の明るい面を見つけてごらん。
9.アイ・ゲット・アロング・ウイズアウト・ユー・ヴェリー・ウエル(エクセプト・サムタイム)
 私はあなたがいなくても生きていけるわ、もちろんそうよ。ただ春はべつでしょうね。でも春のことは考えないようにするわ。春がくれば私の心は二つに割れてしまいそうよ。
10.I Fall In Love Too Easily⇒フランク・シナトラの代表曲の一つ。マイ・フェイバリット
 僕の心はそのことがよくわかっているはずなのに、なぜって今まで何度もあざむかれてきたから。それなのに僕はいとも簡単に恋に落ちてしまう。⇒すぐ恋してしまう愚かな自分を自覚しながらも、また恋に落ちてしまう男が、 自己嫌悪に陥るというものです。「ああ~、また恋に落ちてしまった・・・」という、やるせない片思いの歌です。
11.ザ・スリル・イズ・ゴーン '31年ショウ「ジョージ・ホワイトのスキャンダル」からの1曲。 作曲:Ray Henderson 作詞:Lew Brown
この恋は 終わったのね。あなたの 目にも 見えるの。吐息にも 感じるの。さりげない しぐさにも。終わったのね。この恋も 初めには、とても楽しい 日々だった 青空を飛ぶ 鳥のよう でも もう終わりね 恋は去り もう最後よ なぜ悔やむの いつまでも 終わったのよ。
12.There will never be another you
 こんなような夜、新しい恋人、その唇にキスをし、別の歌を歌い、季節はめぐっていくのだろう。でも、あなたに代わるものだけはない…やはり、恋を引きずる男性の唄でしょうね。

 ■4)チェット・ベイカー・イン・ニューヨーク
 同じチェット・ベイカーのトランペットも聴きたくなって、菅野邦彦のフィンガーポッピングでお気に入りになった、”ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス”の入っている”イン・ニューヨーク”を手に入れた。(上記左)
 この中では、やはり、”ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス”が一番です。人生の楽しさ、辛さ、悲しみを全て知ったような哀感溢れるアドリブが聴けます。しかし”HOTEL49"や、”SOLAR”や、”FAIR WEATHER”もなかなかいいです。チェットのアドリブは、リー・モーガンのような一瞬の閃光でもなく、ブラウニーのような全てを照らす陽光でもない、春の縁側にさす日光のように暖かく人を包み込む優しさを感じます。

 次回は、私の大好きな アートペッパーについてお話します。
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