「性的不能と宣告された夫は妻に事実を告げる。夫を励ます妻だが実は妻には既に若い恋人がいた。
40歳の外科医ロマンは、同業の友人から性的不能になったと診断され、若い妻であるハンカと別れるべきではないかとほのめかされる。夫婦は診断結果を話し合い、お互いに別れる気はないことを確認するが、実はハンカは若い大学生マリウシュと浮気をしていた......。」
40歳の外科医ロマンは、同業の友人から性的不能になったと診断され、若い妻であるハンカと別れるべきではないかとほのめかされる。夫婦は診断結果を話し合い、お互いに別れる気はないことを確認するが、実はハンカは若い大学生マリウシュと浮気をしていた......。」
「デカローグ9」は、「ある孤独に関する物語」で、モーセの十戒で言えば「汝、隣人の妻を欲するなかれ」に対応している(と思う)。
これも例によってMovie Walker Press のあらすじの方が詳しい(ややネタバレ気味ではあるが・・・)。
「中年にさしかかった心臓外科医のロメク(ピョートル・マカリカ)は医師に性的不能を宣告される。彼は妻のハンカ(エワ・ブラシュスク)に正直に打ち明け、別れてもいいと言う。妻は肉体関係だけが愛ではないと励ますが、彼はそれも愛だと答える。果してハンカには以前から物理学科の学生マリウシュ(ヤン・ヤンコフスキ)と情事を重ねてきた。妻は早くこの関係を清算しようとするが、マリウシュが逢引きの時に車のダッシュボードにノートを忘れ、ロメクはこれを見つける。ロメクは電話を盗聴して二人の関係を確かめて妻を尾行。マリウシュと会うアパートに張り込み、妻が若い男の肉体を貪る姿まで目撃する。ある日。ハンカはアパートの衣裳棚にひそんだ夫に気づく。なじる妻に彼は自分には愛される資格はないと答え、ハンカは彼を抱きしめる。二人は冷却期間をとろうと決めて、ハンカはスキーに出かける。だが、マリウシュが彼女の後を追ったのを知り、悲嘆に暮れるロメク。ハンカはスキー場で彼に会い、胸騒ぎがして夫に電話。入れ違いで彼は出かけた後だった。急遽家路につくハンカ。それを知らず涙を流しながら、工事中の道路を全速力で駆け上がり、つきあたりで転落するロメク。ハンカは家で置手紙をみつけ、後悔と不安に泣き暮れる。そこへ九死に一生を得たロメクから電話が。妻は夫の声を聞いて微笑んだ。」
現在の日本の裁判実務において、性的不能は十分な離婚原因となり得る。
つまり、(倫理的に正しいかどうかは別として)、法的観点からは、性的関係は、婚姻の中核的要素と見なされているのである。
なので、ロマン(映画では「ロメク」)が自ら離婚の話を切り出したのは無理もない話であった。
だが、妻:ハンカは、
「肉体関係だけが愛ではない」
とロマンを励まし、離婚を拒絶する。
反面、彼女はその裏で、物理学科4年生のマリウシュと情事を重ねていた。
このハンカの不貞がバレる過程においては、古いダイヤル式の電話が活躍する(つまり、携帯電話が普及した現在では、このストーリーは成立しない)。
すなわち、
① ロマンとハンカの自宅の居間にある黒電話(ロマンとハンカが使用)
② ロマンの部屋にある子機の白電話(ロマンが使用)
③ 空家となっているハンカの母のアパートの白電話(主にハンカが使用)
④ 街角の公衆電話(劇中ではマリウシュとハンカが使用)
の4台である。
ロマンは、ハンカとマリウシュとの間の会話(①とマリウシュ宅の電話の間でなされる)を子機(②)で盗聴し、次の密会の場所と日時を知る。
ロマンは、密会の場所:ハンカの母のアパートに張り込み、ハンカとマリウシュの交合をドアの外から覗き見る。
その後、ロマンはハンカからアパートに母の物を取りに行くよう頼まれたが、車の運転席の下に落ちていたマリウシュのノートから、彼の電話番号を知る。
ロマンは、預かった鍵を複製して合鍵を作り、次の密会の際は、何とアパートの中の箪笥の中に入って待ち伏せする。
密会する二人だが、ハンカはマリウシュに別れ話を切り出し、彼を冷たく追い出す。
すると、箪笥の中から嗚咽が聞えて来て、ハンカは不貞がロマンにバレていたことを知る。
ここからの展開は意外というほかない。
ハンカは、
「あなたと別れたくない・・・あなたをこんなに傷つけてたなんて・・・」
「もうあなたに隠していることはないわ。・・・養子をとりましょう!」
と述べて、アッサリと関係を修復させてしまう。
それからしばらくして、ハンカは、母が住むポーランド有数のスキー・リゾートであるザコパネに一人でスキー旅行に出かける。
まだ疑いを抱いているロマンは、マリウシュの家に電話すると、彼の母親らしき人物が、
「マリウシュはいません、ザコパネに行きましたよ」
と答えたため、ロマンはまたしてもハンカに裏切られたと思い込み、自暴自棄となって道路を自転車で疾走し、転落して重傷を負う。
実際は、マリウシュはハンカの会社の同僚から彼女の行き先を聞いて、追いかけてきたのだった。
真相を知ったロマンとハンカは和解し、抱き合うところで幕切れとなる。
・・・この物語から分かるように、夫と妻の関係は、生物学的な親子関係とは全く異なり、その性質上極めて不安定である。
というのも、夫/妻というものの本質は、当事者の、その場面場面における思考に応じて、相対的に定まるものだからである。
どういうことかと言うと、ロマン(ロメク)が当初考えていた「夫」は「性的な能力を持った男性であること」を本質に含んでいるが(それゆえ、性的に不能となったロマン(ロメク)は「夫」たる資格を欠く)、ハンカにとっての「夫」はそうではなくて、「子どもを一緒に育てるパートナーであること」がその本質である、といった具合である。
・・・というわけで、私がまだ観ていない映画版「デカローグ9」には、
「ハンカに裏切られた絶望の余り、ロマンが、自殺目的で道路を自転車で疾走し、どんづまりで下に転落するシーン」
が登場すると推測する。