Bar Scotch Cat ~女性バーテンダー日記~

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女性バーテンダーScotch Catの独り言&与太話です。

Speak Low

2010-01-14 15:45:53 | to the bar

ある夜、そのお客様は一人で深夜にご来店になった。
50代くらいだろうか。やり手の仕事人、という印象の男性だ。何度かカウンターでお話をし、気心も知れてきた頃だった。

いつもだったらカウンターに座るその男性は、その夜なぜかカウンターを見渡せるテーブル席に一人で腰をかけた。
一人なのにテーブル席なんて、どうしたんだろう、と思ったけれど、彼のいつもと少々違う雰囲気に、ムリにカウンターを勧めることもなく、scotch_catはテーブル席についた彼の元へウイスキーのグラスを運んだ。
なんだかすごく疲れている いや、 泣きそうな顔をしている。
「お疲れですか?」と声をかけたscotch_catを、その彼は仕事のメモと思しき紙をテーブルの上に広げながら、その泣きそうな目でほんの僅か見つめた。

カウンターの中に戻ったscotch_catは、その彼の様子を気にしつつも、カウンターのほかのお客様と談笑していた。
やがてお会計の合図をすると、席を立った彼は、レジで「明日も早いですか。寝坊されませんように。」などと、たわいもない会話をするscotch_catに、ぽつりと
「君の声は、落ち着く声だ。」と言って帰った。今にも泣き出しそうだったその目には、やや明るさが戻っていた。

年末年始、しばらくお会いすることが無かったその男性が昨夜久しぶりにいらっしゃった。
「あの時、仕事のことですごく落ち込んでいて、テーブルで一人、頭の中を整理しながら飲んでいたのだけど、君がカウンターで他のお客さんと話して、カラっと笑うその声を聞いていたら、自分の悩んでたことを笑われたような気がしてさ。なんか、くだらないことに悩んでたんじゃないか、ってすっきりしたんだ。」
とおっしゃった。
scotch_catは、歌手でも声優でもない。特別な美声なんかでは全く無い。
ただ、そのとき、そのお客様にとっては図らずもひとつの救いになったのだ。
昨夜お帰りになるとき、カウンターを立った彼は
「久しぶりに、落ち着いた」と自分の耳を指差して帰った。

scotch_catは、気の利いた会話なんてできない。
落ち込んでいる人や悲しんでいる人の空気を感じ取ることはできても、それにそっと寄り添ってグラスを差し出すことしかできない。
こんなときに説得力のある格好いいセリフのひとつも出てきたら、といつも思う。

だけど、それが上手にできなくても、お客様を救えることはあるんだ。

そのお客様のセリフに、笑顔に、scotch_catが救われた夜だった。






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