◇描写「与えられた米袋、金属ピンチ、プラスチック製ピンチの特性を活かして構成し、下記条件に従い、答案用紙に鉛筆で描写しなさい。」
今年度は[2016年度の提灯]や[2018年度のブリキ缶]などの過去問に似たとても大きな1点モチーフ(米袋)が出題されました。問題文には例年必ずあるはずの「台紙上に配置」という言葉が無く、「特性を活かして構成」と記載されていたので、その点に関してはとても新鮮に感じました。まずそれぞれの特性とは何か?『米袋』=米を入れて貯蔵したり販売したりするために使用する紙製の包装資材こと。『ピンチ』=物が落下しないよう挟んでとめる留め具ことで、金属とプラスチックにも大きな質感の違いがあります。
構成・構図としては【米袋の留め方の工夫】、【米袋の向きやサイズ感】が求められていますし、問題文にも特性を活かして構成と記載があるため、2017年度の紙コップ50個のように構成力が必要な課題でした。
過去問を遡ると昨年と一昨年に今回と同じ材質のモチーフが出されており、(2021年度に「紙袋とプラスチックケース」、2022年度に「金属ボウル」)、そのことからも近年の傾向である『基礎的な描写力』が求められていると推測されます。
米袋は【中と外の光の当たり方】、【上面、横面の光の当たり方】など面の違いを的確に捉えて立体感を表現できているか。手前と奥の描き込みの差などの空気感、細かな紙の質感を表現ができているか。またピンチは左右対称である形の正確さ、質感の違いを表現できているかなど総合的にモチーフを注意深く観察しているかが問われた課題だったと言えます。
◇色彩 テーマ「ハケの特性を活かした色彩構成」下記の条件に従い、答案用紙に色彩で表現しなさい。
今年度の色彩課題は『ハケ』という受験生が普段見慣れているモチーフが与えられました。今回、課題文の中で特に重要だったのが、「特性」と「色彩構成」という言葉です。まずハケの特性とは何か?①「絵筆に比べ広い面積を均一に塗れる」、②「コシがあり曲げやたわみの回復力に強い」、③「ソフトな感触の毛の質感」、④「塗った跡のテクスチャー・マチエールの表現」などが挙げられます。絵筆とは異なるハケを使い、それらの特性を画面内で表現出来ているかが問われています。
次に「色彩構成」という言葉ですが、「平面構成」と呼ぶこともあり、色の組み合わせや、形と空間的バランスにまとまりのある画面を作ることを目的とする課題のことを指します。色彩構成の基本は、アイデアやイメージを見る人に分かりやすく伝えることです。
今回は課題文に「自由」や「イメージを広げて」という言葉が無かったため、余計なものを描かずに、アイデアをシンプルに他者に伝えるということが求められていると推察されます。
また例年と大きく違ったのが、画材が支給されたことです。ハケと8色のポスターカラーで全員平等に制作するというのは、画期的な条件だったと思います。絵の具の数が限定されていることから、混色して美しい色の組み合わせや、配色を作り出すことを期待しているのだと思います。
他にも「塗り残しがあっても良い」というのも今までの過去問にはなかった特徴です。この言葉の意図を考えると、①ハケは絵筆で塗るより難しいため多少の塗り残しは構わないので、失敗を恐れずに精一杯制作して欲しいという考えによるもの、②絵の具で塗ったのとは異なる画用紙のテクスチャーを作品の一部に取り入れることを期待されたもののどちらかだと推測されます。そのため全て塗っていても決して問題はありませんが、中途半端な塗り残しがないことが重要で、塗り残しがある場合はハケの特性を活かすためにも如何に自然に美しく画用紙の塗り残しを表現できているかが求められています。
その他の採点基準としては、構成のバランス、色の綺麗さ豊かさまとまり、発想の面白さ、丁寧さや完成度の高さなどが評価されると思います。
◇立体 テーマ 与えられたコンバイン袋を解体して材料として用い、「収穫」をテーマに下記の条件に従って答案用台上に立体を制作しなさい。
今年度の立体課題は『収穫』をテーマに、与えられた材料で表現するという課題でした。支給された制作用材料は過去に出たことのある針金・竹ヒゴと、今回初めてコンバイン袋という特殊な素材が与えられました。課題文に『与えられたコンバイン袋を解体して』と太字で強調されている事からも、そこには出題者の強い意図が込められていることが読み取れます。課題文の注釈にある通り、収穫物を入れる袋として用いられるコンバイン袋を敢えて『解体』させるというのは、受験者独自の形での『収穫』を表現する事を求められていると推測されます。コンバイン袋のどこを・どのように解体するのか、そして解体したコンバイン袋と針金、竹ヒゴを組み合わせながら、どういった造形・構成で『収穫』を表現しているのかを問われた課題だと言えます。
次に『収穫』というテーマについての読み解きも重要でした。一般的に収穫というのは農作物などのモノを『取り入れる・摘み取る・集めていく』という動作を指す言葉です。与えられた材料を用いながら、その動作がしっかり伝わる作品が評価されると予想されます。テーマ表現を突き詰める為には、その言葉から万人が連想する動作や状況をエスキースの段階で考える時間が重要です。収穫における動作を考えた時に、『収穫するモノ』と『収穫されるモノ』の関係がどんな状況においても共通事項として浮かび上がってきます。するモノとされるモノの関係性、そしてそれらが生む『収穫』の動作(集められていく、取り入れられていく、摘み取られていく様子)が作品に落とし込めているかがポイントだと考えられます。
また、立体の課題における基本事項もしっかりとクリアしている必要があります。条件を守れているか・倒壊しない丈夫さ・指定された空間上での構成など、これまでの対策でも意識してきたポイントは漏れなく押さえる事が重要です。特に今回は針金や竹ヒゴといった線材が支給されたため、コンバイン袋と上手く組み合わせながら安定した構造を作る工作力も大切です。構造的には安定しながらも、その造形はしっかりテーマ表現に結びついているかどうかは重要なポイントです。
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