葦津泰國の、私の「視角」

 私は葦津事務所というささやかな出版社の代表です。日常起こっている様々な出来事に、受け取り方や考え方を探ってみます。

グリーンニューディールとは

2009年04月11日 22時37分13秒 | 私の「時事評論」
 急激に世界を襲い、深刻化する現在の経済不況から脱却する一手段として、グリーンニューディール政策なるものを米国のオバマ大統領は採択し、呼応するように日本でも同名の方針が準備されていると報道されている。これが需要創造の、さらにはそれに加えて人類の未来を確保する環境再生の礎になれるのか、注目されている。即断は許されないが、この新しい潮流には、大いに期待して良いような気がしている。
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 ただ、グリーンニューディールという名前だけを聞くと米国の昭和初期の大恐慌時代、中途半端に終わった大規模な公共事業でダムや水路を作ったニューディール政策を想起する。
 オバマ大統領の胸中には、ルーズベルト時代の恐慌脱出のため、大規模な公共事業を創出した精神を継承。これに倣って従来の自由放任経済の破綻を計画経済への転向で救おうと、新たに「新規の需要創出には地球環境再生を」という一石二鳥を求める方針を定め、国家が率先して膨大な需要を生み出そうとしているのだろう。彼にあこがれるオバマ氏らしい発想だ。
 だが、かつてのニューディール政策は需要創出への転換には結び付かず、米国は結局日本をスケープゴートに定め、日本に戦争を起こさせることによって軍需需要で立ち直った。この歴史をわれわれは忘れてはなるまい。
 昭和初期と今は経済状況も酷似している。今回の政策の目的は良しとしても、日本の施策が米国に倣いこの歴史を知らずに「ニューディール」の名を冠して政策立案をしている無神経さは感心できない。国にとっては大切な問題だ。
 この不況は、新たな大戦争への予兆であるとの説も有力で、専門筋には、オバマとルーズベルトが重なって見えると指摘されている時でもある。なおさらのこと、注意をしてほしいと切望する。
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 地球に人口が増えて、乱開発のために緑が減り大気はよどみ、水は枯渇して川は干上がり、燃料を燃やして大気が汚染している現状は明らかに異常である。文明はまだまだ発展を続けて欲しいが、自然との調和は不可欠だ。
 人間とて地球の中の一つの存在、それが自然を征服相手でもあると思いあがり勝手な横暴を続ければ、いくら寛大な自然でも、この厄介な存在は排除せねばならぬとの力が働き、人類はマンモスの二の舞となる。
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 緑を豊かにし、自然環境を整えて穏やかな環境や気象を回復し、併せて多くの人が安心して生活できる食料や水の供給を図る。化石燃料や植物をむやみに燃やし大気を汚染する代わりに、太陽や風力や波など自然の恵みを利用して空気を汚さず、地球汚染を食い止める。そんな思いで人々が生活環境を見直すことは大事だし、併せて新需要を生み出し、景気とともに、美しい環境は人の心の中までを美しくする。それは日本が過去に目指してきた美し国の理想郷だ。
 より強く言えば、日本こそが今、声を大にして世界に提唱すべき問題だともいえる。
 この夢の追求は有史以来、自然と調和し「治山治水」を目指してきた日本人には容易に理解できる発想だが、自然を敵とし闘う対象とした歴史を持つ異文化の人には理解できない概念かもしれぬ。だが、明らかに自然との共生なしには文明を続けられない時が来た。 
 これからは我々日本人が新しい時代の先達になり、文明の明日を切り開く時になる。そう信じて環境再生に取り組んで行く気概がほしい。それには日本人の出鼻をくじくニューディールの横文字では、そんな日本人の誇りが消えてしまうではないか。たかが名前だけとはいっても、わけもなく変な名称を冠するものではないと思う。もっと心から協力できる名を冠して実施してもらいたい。