言葉が伝えるもの

　先日、稽古場で発した「芝居は始めから嘘」という言葉は
「詐欺師の嘘」に対するアイロニーに他ならないのだが、
「芝居は嘘」という言葉が誤解を生んだようである。確かに
芝居も、人を騙そうとしている、と言われるならそうである。
しかし、詐欺師に騙される場合と異なり、舞台上で演じられる
物語を始めから真実だと信じて見るのは幼い子供ぐらいだろう。
　デパートの屋上で繰り広げられるヒーローショウのアクションに
子供は手に汗して声援を送る。
　願わくば、僕の芝居を観劇下さる方々にも「嘘」を信じて頂きたい。
「芝居は始めから嘘」だけど、全身全霊で芝居を作ろうよ、と、俳優、
スタッフに発した言葉であったのです。
　腕組みして斜めにご覧になっているお客様が、芝居が進行するにつれ、
前のめりで舞台を凝視される、そんな芝居を作りたい。
　だからこそ、自分の発する言葉は不用意であってはならない、と、
自戒して、今日も稽古に励みます。