オンライントークプログラム
「関西・関東の有名アートコレクターのお話」
スピーカー:石鍋博子氏(ワンピース倶楽部 代表)
日 時:2022年 2月20日(土) 14:00 - 15:30
参加者:34名
・自己紹介
東京で生まれて、岩手の大船渡市に小学校までいて、中高が仙台で、大学から東京に来て、大学卒業後、フジテレビに18年間勤め、2007年に主人がガンで亡くなった後にワンピース倶楽部を立ち上げて、現在にいたっています。
・現代アートとの出会い
アーティストの栗林隆さんに出会ったのが最初です。価値観を破壊されるようなすごい出会いでした。現代アートがすごく混沌としていて、システムがまだできていないような気がしてなんだか面白いなと思ったんです。
それが2007年。その年は、毎年開かれているアートバーゼル、2年に1回開かれているヴェネチア・ビエンナーレ、5年に1回のドクメンタ、10年に1回のミュンスター彫刻プロジェクトが6月に全部見られるアート界の当たり年だったので、スーツケースひとつを引っ張って、とりあえず4つを回ってみました。
そこで、アーティストやコレクターやギャラリストにいっぱい会って、すごく勇気づけられたのです。私のようにアートのことをまったく知らなくても、現代アートを通じてコミュニケーションが取れる、こういう楽しいことがあるのだということを日本の人にもっと知らせても良いのではないかと思って、2007年7月に、ワンピース倶楽部を立ち上げました。
そのとき、日本にはたくさんギャラリーもある、いっぱいアーティストもいる、でも買う人がいない、だから日本のアート界はうまく回っていない。インターナショナルなアートフェアが来ない。海外の旬の作品も見られない。と同時に日本の作家を外に広めるチャンスも少なくなっている。だからコレクターをいっぱい増やさないといけない。そう思って、みんなが1年に1作品(ワンピース)ずつ選んで買うような文化ができたらいいなと思って、ワンピース倶楽部という名前で活動を始めました。
私がアート界に一番興味を持ったのは、ファッション業界と違って、トレンドとかなく、自分が好きなものを選べたこと。アートは自分で好きなものを選んでいいんだ!人が何を選ぼうと、遅れているでもないし、かっこ悪いこともない、そんなことを言う必要もないし、言われる筋あいもない、大人の空間だなと思いました。
とにかく楽しかった。別に買うことを喜ぶのではなくて、価値がお金でなくて、アート自体にあった。この作品で何をやりたかったと熱っぽく語るアーティストの話がすごく楽しくて、現代アートは最高のコミュニケーションツールです。そういうことをいろんなところでしゃべっていたんですけど、、、最近はちょっとファッション化しているようでどうかなと思っています。
・ワンピース倶楽部について
http://onepiececlub.sakura.ne.jp
主人が亡くなった直後、何をしようか悩んでいるときに、私がワンピース倶楽部を立ち上げることを聞いた友人たちが、石鍋さんがようやく元気になって何かをするようなので協力しようと39人が集まってくれました。
現在、国内の支部は北海道、金沢、名古屋、関西、四国、九州。
海外は、台湾とインドネシアにあります。
★3つの会則
・ワンピース倶楽部の会員は、一年の間に最低一枚、現存するプロの作家の作品を購入します。
なぜ生きている人かというと、コミュニケーションが大事だから。私がなぜ現代アートが好きかというと作家が面白かったから。
・ワンピース倶楽部の会員は、自分のお気に入りの作品を見つけるために、ギャラリー巡りや、美術館巡りなど、審美眼を高めるための努力を惜しみません。
やみくもに買わなくていい。じっくりいろいろなところに行って、楽しんで審美眼を高めて、1年に1作品ぐらいは買えばいいかなと思っています。
・ワンピース倶楽部の会員は、各年度の終了したところで開催される展覧会で、各自の購入作品を発表します。
ワンピース倶楽部をつくったときに、本当に会員は買っているのか、会員は買うのか、と思って、買ったかどうかの証拠の展覧会を毎年9月ぐらいに開いています。「はじめてかもしれない展」という名前で続けています。
★定員
ワンピース倶楽部は1年完結型。会費だけ払って活動しない人は要らないので1年経ったらいったんばらしてまた更新します。
定員は一応130人なんですが、130人を超えたのは1回だけ。10周年のときに「みなさん協力してください!入ってください!」と言ったときが150人でしたが、それ以外は100人ぐらい。
この団体は非営利団体。入会金1万円ですが、当初は実費でやっていて、別に会費を集める必要はなかったのですが、無料にしてしまうと酔った勢いで「入る入る!」と入会してから、「絵を買った?」と聞くと、買わないみたいなことになるといやなので、絶対1万円は今年は買いますという覚悟金です。
・現代アートの買い方
作品の後ろに感じる作家を愛しています。人のコレクションにはまったく興味がありません。
最初の頃は会わないで買ったこともありますが、生きている作家ですからそのあとで会うこともあります。そのとき嫌な人だったりすると、その絵を見ると思い出しちゃうんですよね。
だからいまはなるべくちゃんと作家に会ってから買うようにしています。できればお友達になりたいと思えるような人の作品を買いたいですね。
私の一番の理想は、最初に買う人になること。嬉しいことに、私が買った作家は活躍するんですよね。そのあとは誰かが買ってくれたらあぁよかったと思います。
・質問:ご自宅は現状、美術館のような状態ですが、作品がさらに増えたら、展示・保管はどうされるのでしょうか?
まず、この質問に答える前に、全部の作品をほとんど飾っているので、「保存状態のことは考えないんですか?」と聞かれることがあります。そのとき、私はその作品の本番がいつか、ということを考えます。
私が買った作品の本番は、申し訳ないけれども我が家で迎えてほしいと私は思うんですよね。だからその作品の人生はうちで全うしてほしい。
家族は、私がこの作品をどんなに好きなのかは知っているので、もし私が死んでも無碍に捨てるということはしないと思っていますし、もしその作品が本当に価値があるのだったら、将来修復してくれると思うので、私は心配していません。
その作品が本物の力をもっているかどうかに任せればいい、と思っているので、とりあえず私は、全部の作品を自然光に当てちゃって、楽しんでいます。
ただやっぱり作品を見にいったときに考えてしまいますね。これはどこに飾ろうかと。まだ使ってない部屋もあるので、そこにだんだん侵食していくのかなという感じがしています。
■ 事務局より
石鍋さんいわく「私はコレクターと呼ばれたくないし、アートのプロでもないし、ちゃんと生活も大切にしながら、アートも集めたいなと思っているので、ほとんどの作品は飾っています。生活の中でちゃんと居場所があるようにしたいなと思っているので、結果こうなってしまいました、みたいな展示なんです」
石鍋邸に愛情をもってぎっしりと飾られている作品を拝見し、生活の一部にアートがしっくり馴染んでいるのを感じました。
石鍋さん、ご講演をありがとうございました。