2021年の日本ダービー馬シャフリヤールが、6月15日に英ロイヤルアスコット競馬場で開催されるGⅠプリンスオブウェールズSへ出走することになりました。このレースには、過去に同じディープインパクト産駒のスピルバーグとエイシンヒカリが挑戦いたしましたが、重く泥んこの馬場に苦しんで敗れ去っております。
シャフリヤールは、今年の3月に、ドバイで行われたGⅠドバイシーマクラシック(芝2410m)を快勝。その際、欧州から遠征していた中距離路線トップ級のアレンカーや、米ブリーダーズカップターフの勝ち馬ユピアーを破っており、藤原英昭調教師と馬主サンデーレーシングは、その勢いを駆って、世界一を目指す挑戦に踏み出したということ。その第一弾が、ロイヤルアスコットのGⅠプリンスオブウェールズS。
しかし、シャフリヤールは昨年の不良馬場の神戸新聞杯でまさかの4着に敗れたように、けして重く泥んこになりやすい欧州の馬場が得意な馬ではありません。それでも、敢えて、陣営が欧州遠征を決めた理由は何か?
恐らく、ダービー馬シャフリヤールと言えども、ディープインパクト産駒が溢れる種牡馬市場の中で、ちゃんと生き残るのが大変、という裏事情があるのだと思います。
有名なNICSであるディープインパクト×ストームキャットの種牡馬としては、既にキズナ、リアルスティール、サトノアラジンが居て、キズナはオールラウンドで活躍馬を出していますし、サトノアラジンもダート路線や短距離で実績を見せています。リアルスティールは今年の2歳が第一世代となりますが、最も期待されている新種牡馬と評価されています。
また長距離路線向けの種牡馬としては、南米母系のサトノダイヤモンドや、天皇賞春を2連覇したフィエールマンがおります。そして、短距離路線ではミッキーアイルが既に2世代を送っており、2世代で重賞勝ち馬を出している状況。
シャフリヤールは、ディープインパクト×米国スピード血統という恵まれた血脈の持ち主ですが、このカテゴリーには、既にコントレイルというとんでもないライバルが存在します。コントレイルに比べて、何か自分の「売り」が作れるか?
このように、ディープインパクト産駒のダービー馬と言えども、相応に特長を示せる実績を引っ提げないと、なかなか社台スタリオンステーションへの道が開かれないという厳しさなのです。8歳で走り続けるダービー馬マカヒキの例を出すまでもなく、厳しく激しい闘いが「裏事情」として存在するようです。
シャフリヤール陣営としては、欧州に暫く滞在しながら、欧州環境に慣れることで、かつてのエルコンドルパサーのような実績を上げ、それを手土産に種牡馬入りというのが目算なのだと思います。
このあたり、同期の年度代表馬エフフォーリアとしても、他人事ではないと思います。エフフォーリアの父親はエピファネイアで、ディープインパクトやキングカメハメハのあとを継ぐスーパー種牡馬候補と呼ばれていますが、まだ年齢が若いため、それほど後継種牡馬の悩みはありません。むしろ、サンデーサイレンスの3×4のインブリードであるエフフォーリアは、繁殖相手を探すのも一苦労という血統であります。したがって、引退を急いだコントレイルのような事情はなく、じっくり海外での実績を上げていかなければならない境遇とも言えます。
早すぎる引退によって、父エピファネイアと繁殖相手を取り合うよりも、それこそ、ライバルのシャフリヤール同様に、欧州遠征を考えるべき存在だと考えます。重い馬場が苦手なシャフリヤールよりも、むしろエフフォーリアの方が欧州競馬に向いていると言えるでしょう。
もし、宝塚記念でエフフォーリアが復活を果たした暁には、陣営には、ぜひエフフォーリアの欧州遠征について検討を頂きたいと願います。