東京カレンダー 2017年 02 月号
東京カレンダーはHPも読み応えありますよ。
こちらの人間模様がなかなか面白いです。
以下の記事の最後の3行には
「 俺の欲しい物を、アイツは全部持っている。
これから、俺はこの要領の良さとコミュニケーション力の高さで、どこまで這い上がれるんだろう。所詮、社内政治を制する者が出世するんだ。
そう思うと、自分の人生が途端に虚しく感じてきた。」(以下の記事より引用)
深まる亮の嫉妬と、フミヤと静香の恋。その行方は…?
25時の表参道:何でアイツばかり評価される?社会人3年目の同期格差と、男の嫉妬
01月07日 05:06 東京カレンダー
25時の表参道。
東京のエネルギーが集結する港区にあって、そこだけ取り残さてしまったかのような静寂が流れている。
昼間は多くの人で賑わうが、深夜になると、隣の六本木とはまるで違った景色を見せる。
赤坂にある広告代理店に勤めるフミヤ・美月・亮は仲の良い同期3人組で、フミヤと美月は付き合っていた。しかし、フミヤと亮が37歳の既婚女性・静香に恋に落ち、3人の運命が狂い出す。
嫉妬に狂う美月は、ついに静香を呼び出すが、全く相手にされない。その晩、一夜を共にした静香とフミヤは翌朝、静香の夫と鉢合わせてしまう。フミヤの帰りを家で待っていた美月は、あることを思いつき…?
美月「“心から愛している旦那”に全てぶちまけてやればいい」
「でもね。私は、旦那のことも心から愛しているの。」
自分は何も悪くない、と言わんばかりの顔で言った藤堂課長の顔が、忘れられない。潤んだ瞳と綺麗な桜色の唇は、女の私でもドキッとしてしまう可憐さで、そのことが一層私を苛立たせた。
骨董通りのスタバで藤堂課長と話したあの日、フミヤは帰って来なかった。限界を感じた私は、ある作戦を思いついた。
そう、彼女が「心から愛している旦那」に全てをぶちまけてやればいいのだ。
◆
「梨花、藤堂博之さんって知ってる?」
同期で一番の遊び人、梨花にLINEした。彼女はとにかくフットワークが軽く、人脈も広い。
―藤堂博之。
藤堂課長の旦那さんは、「やり手の経営者」としてメディア露出も散々しているちょっとした有名人だ。
「うん。知り合いだよ〜。」
LINEはすぐに返って来た。
「仕事で聞きたいことあるから、ちょっとセッティングして欲しいんだけど。」
「OK!」
代理店女子の人脈とフットワークを、舐めてはいけない。週明けの月曜日、彼がよく行くと言う六本木の『R2 SUPPER CLUB』に行くことになった。
藤堂博之。小悪魔的な静香の旦那は意外にも…!?
美月「今日の目的は、この男を気持ちよくさせることじゃない」
その日は、梨花と梨花の遊び仲間の女の子、それに藤堂博之の会社の仲間数人。合計10人くらいの大所帯となった。
21時から始まった会だったが、彼は1時間ほど遅れてやってきた。
「お!社長が来たぞ!」
藤堂博之が経営するバーの従業員だという若い男が、大声で叫んだ。彼は苦笑いしながら、それでも慣れた様子でウィスキーを注文した。
やり手の飲食店経営者、というくらいだからもっと華やかな感じの人を想像していたけれど、黒ぶちの眼鏡をかけて少し長めの髪を真ん中分けしたその男は、肩書のイメージより数段地味だ。
「こんばんは。美月です。」
バーボンの水割り(普段は絶対飲まないけれど、場の雰囲気に合わせて仕方なく飲んでいる)を片手に、彼の隣に座った。
「どうも」
藤堂博之は、それだけ言って黙々と飲み始める。
「よく雑誌でお見かけします。藤堂社長が新しく出した白金のお店、私もこの間行きました。」
これだけ話しても、彼は特に反応しない。こうやって近づいてくる女は嫌というほど見てきた、そんな感じだ。
死ぬほど感じは悪いが、仕方ない。目的はこの男を気持ちよくさせることじゃない。本題に入ってしまおう。
「…藤堂さんの奥さんて、藤堂静香さんですよね?」
ウィスキーを持つ手が止まり、右眉がぴくりと動いたのを、私は見逃さなかった。
「奥さん、同じ会社なんですけど、私の彼氏と付き合ってるんです。」
その日初めて、藤堂博之は私と目を合わせた。
一方、その時亮は…?
亮「静香さんにはプライベートの連絡先を教えてもらってない」
「静香さんに連絡しても、全く返信がない。」
代々木上原の『ナカガワ』で、ユリに愚痴っていた。彼女と会うのは久しぶりだったが、付き合う相手ではないとお互い分かっているので気楽な関係だ。
「ちょっとさ、このメール見てよ。」
静香さんには、プライベート用の連絡先を教えてもらっていないので、送るのは専ら会社のメールからだ。
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TO: shizuka nikaido
件名:【業務外】打ち合わせのお願い
藤堂課長
お忙しいところ申し訳ありません。
今日、軽く飲み行きませんか?
時間は合わせます。
中田 亮
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「打ち合わせって…。打ち合わせじゃないじゃん!」
「しょうがないだろ。社内のメールだと、後ろから誰かに見られるかもしれないし。」
スマホの画面を見ながら、ユリが突然真顔になった。
「二階堂?この人、二階堂って言うの?」
「確か、バツイチなんだよ。旦那がアメリカ行って離婚したとか言ってた。メアドは旧姓のままになってるんだな。確かに検索するとき不便だわ。」
訝しげな表情で、ユリが聞いてきた。
「ふぅん…。その人って何歳だっけ?」
「37歳。一回りも上なのに、めちゃ綺麗なの。肌とか艶っぽいし、目が黒目がちでさ。少女みたいな感じなのに色っぽいの。」
メールを何度確認しても、返信が返ってくる気配はない。
「ユリちゃん、今日は飲もうぜ!」
無理矢理自分を奮い立たせ、本日3杯目となるウィスキーを注文した。静香さんが水のようにすいすい飲むのを見て、最近はずっとウィスキーばかり注文している。
―少しでも、彼女に近づきたい。
ユリはそんな俺に「ほどほどにしなよ」と言いながら、同じものを注文していた。
落ち込む亮に、さらに追い打ちをかける出来事が…。フミヤとの差がますます開く?
会社内でのミーティングでフミヤと鉢合わせ、更に深まる嫉妬
昨夜は結局、ユリと結構深酒してしまった。二日酔い知らずのはずの体が、悲鳴を上げている。
午後、フミヤのいるチームと打ち合わせの予定があった。俺とフミヤ、そしてそれぞれの上司、計4人でのミーティングだ。
昨日遅かったのか、フミヤの目は赤く充血していた。1つのコピーを決めるのに、何十本、いや何百本も考えると聞いたことがある。
「コイツがこの間考えたのがね、一発OKでさ。うるさい取引先だったんだけど、随分助かったよ。」
打ち合わせ前の上司同士の会話。フミヤの上司が上機嫌で話している。
「うちの期待の新人だよ。こんなセンスあるやつ、最近珍しい。普段は何考えてるかよくわかんないのに。」
俺は入社当初、クリエイティブ志望だった。でも配属されたのは「俺は営業かなぁ」とぼやいていたフミヤだった。
「いや、そんなことないですよ。めちゃくちゃ駄目出しされたじゃないですか。」
笑いながら言うフミヤの顔は充実感に溢れている。
3時間ほどに渡る無意味な打ち合わせは、永遠に続くように思えた。
仕事が終わり、表参道に寄った。静香さんと会ったあの日の帰り道、タクシーの中からぼんやり眺めた表参道通りを、今日は当てもなくぶらつく。
美月から始まって、藤堂課長、そしてクリエイティブな仕事。
俺の欲しい物を、アイツは全部持っている。
これから、俺はこの要領の良さとコミュニケーション力の高さで、どこまで這い上がれるんだろう。所詮、社内政治を制する者が出世するんだ。
そう思うと、自分の人生が途端に虚しく感じてきた。
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深まる亮の嫉妬と、フミヤと静香の恋。その行方は…?