岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

春日山原始林の「自然歩道」に樹木をたずねる

2009-04-19 05:07:57 | Weblog
 (今日の写真は「アセビ」である。至る所で見ることが出来た花だ。奈良公園の植え込み、住宅街の垣根や植え込み、「春日山原始林」の南に面した道路端や林縁などである。
 宮城県以南の本州、四国、九州に分布する樹木なので、私たちは自生しているものを見ることが出来ない。その点で、珍しい花である。
 もう一つ「珍しさ」が加わった。それは3月31日だというのに、すでに満開のように咲き誇っているということだ。3月末に「咲き誇っている花」がこの弘前にあるだろうか、「ない」のである。
 この2つの要因から、最初の出会いは、まさに「驚喜」であった。しかし、時間が経ってくると、どこにでも余りありすぎて「食傷」気味になってしまったのだ。
 最初の出会い…「あっ、あれは何だ」と好奇心の塊、丸出しだ。だが、次第に、その塊も角がとれて、「ああ、アセビではないか」となり、「ああ、そこにもある」「あそこにもある」、そして「ああ、またか」となり、最後は首を左右に振って目を向けなくなってしまうというわけである。
 「アセビ」はツツジ科アセビ属の高さが3~数mになる常緑低木である。早春から「釣り鐘型」の花を咲かせ、その地方では「春の到来を実感させる」植物であるだろう。
 早春に、白色の「壺状花」を開き、房のように総状に垂れ下がる。秋には果実を稔らせるのだが、夏には花序を準備し始め、冬には直ぐにでも花を咲かせることが出来るほどの状態で花序を形成している。実に長い時間をかけて花を準備する植物なのである。
 山地の乾いた土地に好んで自生するが、花が美しいので、庭木としても植栽されている。しかし、全株が「有毒植物」であり、牛馬が食べると麻痺するので、漢字では「馬酔木」と書く。葉の煎汁は殺虫剤や皮膚病薬として利用され、材は堅く、薪炭材や細工物とする。 別名を「あしみ、あしび、あせぼ、あせみ」といい、他に「毒柴」や「柃(ひささき)」とも言うそうだ。
 「馬酔木」と書いて「アセビ」と読めるわけがないではないか。私なら絶対に読めない。全くの当て字だ。腹立たしいほどの当て字である。
 「アセビ」という古来からの「音読み」には、例えば「山」は「ヤ」+「マ」でそれぞれ意味を持って成り立っているように、「ア」「セ」「ビ」一字一字に、または、「ア」+「セビ」、あるいは「アセ」+「ビ」としての別の意味があるのではないのだろうか。妙に知りたくなった。

 「馬酔木」または「馬酔木の花」、または「花馬酔木」などは、俳句の「春」を表す季語である。
 「春日山原始林」から「若草山」、そして「東大寺」を巡ったが、そこで出会った「馬酔木」の風情を伝えていると思われた俳句を見つけたので紹介しよう。
 ・「花馬酔木山深ければ紅をさし(福田蓼汀)」
 ・「仏にはほとけの微笑あしび咲く(飯野定子)」 )

「春日大社」の大きな朱塗りの鳥居を右に見ながら、「ナギ林」を抜け、しばらく住宅地を歩くと、葉の芽が出たばかりの、落葉樹「ナンキンハゼ(トウダイグサ科)」がよく目につく。
 これは中国原産だという。この木は昭和の初めに奈良公園内に持ち込まれたものであるそうだ。「ナンキンハゼ」は、「ナギ」や「アセビ」、落葉低木で、蕾を膨らませた「イヌガシ(クスノキ科)」、落葉低木で1m程度しか伸びない「イズセンリョウ(ヤブコウジ科)」などと同様にシカは食べないのだ。
 だから、これらが選択的に残り、特にナギやナンキンハゼがその分布域を旺盛に広げているのである。
 その瀟洒な住宅地を、少し下って再び東向きに進んでいくと能登川と交差する。ここからこの川沿いに進む道が「柳生街道 」で、奈良と柳生を結んでいる古くからの街道なのだ。車道が整えられるまでは唯一の交通路で、何と、昭和30年代頃まで、人々の「生活道路」として盛んに利用されていたというのだ。今は、「石畳」の道となり、人が2人並んでようやく歩けるぐらいになっている。

 静かな住宅街を抜けると、いよいよ照葉樹の森の中に入る。道の右手に、当地岩木山でも偶に出会える大きな落葉樹「エゴノキ(エゴノキ科)」を見つけることが出来た。橋を渡るとやがて三叉路があり、この辺りから樹冠を見上げると、背の高い樹木を見つけることが出来る。これが落葉高木で、樹高が20~25mといわれる「ムクロジ(ムクロジ科)」である。
 それから、次第に、樹高が15~20mで常緑高木の「ウラジロガシ(裏白樫)」や、これも樹高が15~20mの常緑高木である「ツクバネガシ(衝羽樫)」などのブナ科の照葉樹が顔を出す。この2種類は葉の大きさや形が非常に似ているので、裏の白さが決め手だろう。
 こうした谷筋には、日光が林床まで差し込むところもあり、落葉高木の「カラスザンショウ・烏山椒(ミカン科)」や落葉高木の「アカメガシワ(トウダイグサ科)」などの「陽樹」も見つけることが出来る。
 また所々で、「スギ」の巨木が森の中で、顔を覗かせる。これらは植樹されたもので、樹齢700年以上のものも確認されているそうだ。

 「柳生街道」の「首切り地蔵」から、地獄谷新池を周遊してみるのも面白いそうだ。池の周りは、岩木山でも見られる落葉高木の「コナラ(ブナ科)」や岩手県以南に自生する、つまり岩木山では見られない「クヌギ(ブナ科)」、岩木山に見られるヤマモミジの仲間の落葉高木である「イロハモミジ(カエデ科)」など二次林の様相をなしているそうだ。
 時間がなかったので、そこまでは行かなかったが、「原始林」の中の「二次林」、何ともはや、面白いことではないか。(明日に続く)