岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

照葉樹林の早い春「春日山原始林」

2009-04-16 05:49:49 | Weblog
 (今日の写真は3月31日に撮った「春日山原始林」、「照葉樹」の森の一部だ。先ず、昨日のこのブログをクリックしてもう一度、「落葉樹」ブナ林の写真を見てほしい。昨日のものと今日のものを並べて「画像表示」も出来るのだが「小さく」なってしまうので、それは止めた。
 そして、「落葉樹」ブナの明るい森をしっかり確認してから、今一度、この「照葉樹」の森の写真を見てほしいのだ。

 実は今日の写真は「春日山原始林」内の照葉樹林のもっとも暗い樹間のものと比較的明るい場所のものと2枚くっつけてある。左側が最も暗い場所のもので、時間が午前の10時頃で、晴れているにも拘わらず、この暗さなのだ。右側のものは出来るだけ明るい場所を探して写したものだから、これくらいの空間が存在しているのである。
 とにかく、3月31日だというのに、これほど緑で覆われて暗い森を見たことはなかった。ただただ、驚くばかりである。「冬だというのに葉を落とさない」森、この「出会い」は新鮮であり、貴重な体験であった。間もなく70歳に手が届くようになって初めての体験、私の心は、少年のように弾んだ。

 ところで、この暗い「照葉樹林」を構成している樹木の種類にはどのようなものがあるのだろうか。
 私は「葉でわかる樹木625種の検索」(馬場多久男著・信濃毎日新聞社刊)という本を持っている。出かける前に「常緑高木」や「常緑低木」などの項目で一応簡単に調べてはおいた。しかし、現場で、それを思い出すことは至難であった。
 今思えば何故この「本」を持参しなかったのかと、残念でならない。

「照葉樹林」を構成している樹木の種類には大体次のようなものがあるらしい。高木になるものから見てみよう。

 先ずは、「カシ」の木である。「カシ」は(樫、橿、�)という漢字を当てる。また、これは「ブナ科コナラ属の常緑高木の一群の総称」でもある。
 狭義にはコナラ属中のアカガシ亜属を指すが、コナラ亜属中の常緑性の種類も「カシ」と呼ばれる場合もある。シラカシ・アカガシ・イチイカシなどである。
 次は「シイ」である。「シイ」は椎と書き、「ブナ科シイ属」の樹木の総称だ。ツブラジイ(コジイ)とその変種スダジイ(イタジイ)がある。うっそうとした大木になるというから、今日の写真の左側がそれかも知れない。葉は革質で裏面は淡褐色。5~6月、香りの強い小花を雌雄別々の穂状花序につける。
 果実は先のとがった卵円形で、果実の「ドングリ」は食べられるので、古くから親しまれている。特にツブラジイの実は美味しいそうだ。材は建築・器具に、樹皮は染料に用いるし、椎茸栽培の原木とされるという。まさに、照葉樹林の代表的構成種でもある。また、マテバシイ属のマテバシイもこの名で呼ばれている。
 次は「タブノキ」だ。これは「椨の木」と書いて、「クスノキ科タブノキ属」の常緑高木だ。イヌクスとも呼ばれる。ちょうど、幼木が葉の新芽を出しているのに出会った。これだけは直ぐに名前が口を衝いて出た。不思議だ。
 さらに同じ科の「クスノキ」だ。これは漢字で(樟、楠)と書く。「クスノキ科ニッケイ属の常緑高木」である。
一般的にクスノキに使われる「楠」という漢字は本来は南国から渡来した木の意であるとされ、中国のタブノキを指す字であるとされている。高さは20m以上に達し、全体に芳香がある。5月頃、黄白色の小花をつけ、果実は球形で黒熟。材は堅く、樟脳および樟脳油を作る。
 亜高木としては、「ヤブツバキ」、「モッコク」、「ヤマモモ」、「ユズリハ」などがある。「ヤブツバキ」は盛りを少し過ぎて「落花」しているものもあった。だが、暗い森を背景にして、林縁で咲いている風姿は、光沢ある葉に映じて、一際鮮やかなものであった。紅い色は、何も「白」だけに映えるものではない。暗い森とその僅かな明るい空間を背景としても美しいものである。
加えて、低木には「サカキ」、「サザンカ」、「ヤブニッケイ」などもあるのだ。
亜高木や低木の「常緑照葉樹」は庭木として、この北国「津軽」でも結構見られるものである。人の心はやはり、どこかで「常緑照葉樹」に深いあこがれを持っているのかも知れない。
 
 さて、「春日山」について少し説明しよう。それは奈良市の春日大社の真東に、標高498mの「花山」を最高峰として位置する山群である。春日大社と花山の間には、標高297mの御蓋山(みかさやま)あり、さらにその北には標高342mの若草山(三笠山)がある。
 私は御蓋山の麓から中腹を通り、若草山の山頂を辿って東大寺に下山したのである。
 「春日山」は841年(承和8)に、山内での「狩猟や伐採」を禁じたことが『類聚三代格』に記されている。その頃から「春日山一体」が春日大社の神域となっていたのである。
この「春日山」には、このような「歴史的経緯」から、1100年以上にわたり積極的に人の手が加えられず、照葉樹の「原始林」が広がっているのである。
 奈良という「観光都市」とに接しながらも、この地域の暖帯「常緑広葉樹」林の極相を示す状態で残っているのだ。
 ただ実際には、「イロハモミジ」や「ケヤキ」が遊歩道沿いに植栽されていたり、また「人の手」によって植えられたと思われるスギが多数、巨木となっている。
 鬱蒼として暗い森の中で、そこだけ明るい場所がある。見ると、そこには「モミジ」があって、小さな若葉を出しているのである。というわけで、厳密には「原始林」とはいえないかも知れない。
 しかし、そのようなことで1100年もの間、培われてきた「原始の森」の価値が変わるべくもないだろう。そこに、国指定の「特別天然記念物」として意義があり、また1998年に「世界遺産」の指定を受けた意義があるのである。
 私が歩いたのは「歩道」だけである。「歩道」から一歩も「森」の中には入ることが出来なかった。そのように「森」は手厚く保護され、「人間」には厳しく「入林・入山を禁止」しているのである。
 同じ「世界遺産地域」でも、観光やコマーシャリズムが優先している「白神山地」とは雲泥の差であろう。(明日に続く)