たんぽぽの心の旅のアルバム

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『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』より-「ロジャーズとトランスパーソナリズム」

2021年08月19日 17時41分21秒 | 本あれこれ
『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』より-「宇宙そのものの形成的傾向」
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/eb3421f4126a23786422693cdffcdfdd

「ロジャーズの基本仮説は、要するに、こういうことです。

 宇宙には、あらゆるレヴェルにおいて、進化に向かう傾向が備わっている。したがって宇宙の一部である人間にも、当然、自らの可能性を可能な限り実現する傾向=実現傾向が備わっている。そして、人類の今後の進化の鍵は、意識の発達ないしスピリチュアルな覚醒にかかっている。この覚醒の力を高めることで人類は、宇宙の進化の方向と調和しながら生きていくことができるのだ。こうロジャーズは言うわけです。

 いかがでしょう。私はここに、人間は絶えず進化する「心を持つ宇宙」、すなわち<コスモス>の進化のプロセスに自ら自覚的にコミットしていくべきであるというトランスパーソナリズム心理学の旗手ケン・ウィルバーの考えにきわめて近いタイプの思考を見出します。しかもロジャーズは、この考え方こそ、「パーソンセンタード・アプローチの哲学的基盤」であると言うのです。

 実際その最晩年の主著(Rogers、1980)においてロジャーズは、「宇宙の形成的傾向」を論じたこの節に続けて、「変性意識状態」という節を設け、トランスパーソナルの理論家グロフ夫妻とリリーの研究をとりあげ、こう述べています。

 「これらの研究が明らかにしているのは、変性意識状態にある人は、この宇宙の進化の流れに触れて、その意味をつかむことができるということです。彼らは、すべては一つであるという超越的な体験へ向かう動きを体験しています。彼らによれば、個人の自己は、美や調和や愛といったより高い価値の
全領域に解消されます。自分はこの宇宙と一つであると感じます。信頼性のある研究が、宇宙と一つになる神秘的な体験を確証しつつあるようです。」

 このように晩年のロジャーズは、人間は、宇宙の進化の方向と調和しながら生きていくことが必要だと考えていました。そこにこそパーソンセンタード・アプローチが基礎に据えるべき哲学があると考えていたのです。そしてその方向での先駆的研究としてトランスパーソナルな諸研究を高く評価しています。

 したがって、ロジャーズがもし今日なお存命していれば、生涯、変化・成長し続けた彼のこと、この方面の代表的な理論家・実践家の一人になっていた可能性もあります。

(略)

 たしかにロジャーズの中心概念である「実現傾向」は、要するに、人間の本質を人間としての独自性や他の生命との相違点から見るのでなく、あらゆる生命体と共有する<いのち>の働きそのものから見て行くもので、この考えを一歩先に推し進めるだけで、晩年の「宇宙の万物に潜む形成的傾向」という考えに行きつくことは説明を要しないでしょう。つまり、晩年のトランスパーソナリズムへの接近は、年齢や妻との離別といった個人的な事情に帰してよいものではなく、自らの思想をさらに徹底した結果自ずと生まれてきたものとして、初期・中期との連続線上で捉えるべきものなのです。

 ロジャーズは「パーソンセンタード」という名称を用いていたことから、しばしば近代的な人間中心主義者と誤解されがちです。実際、日本でも、人間性心理学のもう一人の雄マズローと違って、ロジャーズは、あくまで「人間性」の枠内、内在の次元にとどまったという印象を抱いている人が多いのではないかと思います。

 しかしこれまで見てきたように、ロジャーズの思想の基底には、人間をすべての<いのち>あるものと同じまなざしの下に据える姿勢が、その初期から貫かれていました。それは、人間と他の生命体の間に明確な境界を設けるのでなく、むしろその境界を突破し突き抜けていくタイプの思考で、この意味でもロジャーズは、まさにトランスパーソナルな人であったと思います。」


(諸富祥彦『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』1997年10月10日大一刷発行コスモス・ライブラリー、168-172頁)

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