「お父さんとお母さんは、とくにわたしについて、きげんの悪いことがあるのです。それは、わたしが今までのようにキスをしたがらなくなったことと、家族の者同士が気取った愛称で呼び合うのが、とてもわざとらしくて、いやだと言ったことからです。わたしはしばらくの間、両親から離れていたいのです。マルゴットはゆうべ、こんなことを言いました。「お父さんやお母さんが、わたしに頭痛がするとか、気分が悪いかとやたらにきいたり、また、わたしがため息をつくと、頭へ手をあてたりするので、とてもうるさくて仕方がないの」
マルゴットとわたしは、これまでのような信頼と調和の気分が、家庭からほとんど消えうせたことに突然気がついて、ギクッとしました。しかし、それは主として、わたしたち二人がおませだからです。というのは、わたしたちは子供扱いにされていますが、実際には、同じ年ごろの少女よりも、精神的にずっとませているという意味です。
わたしはだま14歳ですが、自分の欲していること、だれが正しく、だれが間違っているかということを知っています。自分の意見、思想、主義をもっています。わたしのような子供の口から言うとおかしいかも知れませんが、わたしは自分を子供というよりは、一個の人間、だれにも拘束されない独立した一個の人格だと考えています。」
(A・フランク 皆藤幸蔵訳『アンネの日記』1974年7月25日第1刷、1978年10月1日第11刷文春文庫、249‐250頁より)