たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2018年ミュージカル『ジキル&ハイド』(12)

2021年06月19日 08時39分00秒 | ミュージカル・舞台・映画
2018年ミュージカル『ジキル&ハイド』(11)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/577dee8f85a35945fa2e371d4386b162

 公演プログラムよりここまで書いてきたので、最後に東宝、宝塚の舞台に欠かせない塩田明弘先生と甲斐正人先生のフランク・ワイルドホーン氏について語っている対談を。この頃、東京宝塚劇場では、雪組が『ひかりふる路』を上演したばかり。東京国際フォーラムでは『マタ・ハリ』が上演されたあとだったし、ワイルドホーン氏の楽曲を提供した作品の上演が続いていました。宝塚での楽曲提供から縁がつながり、ホーンさんがたかこさん(和央ようかさん)の旦那さんって、そんなことがあるんだなあと今もなんだか不思議な感じです。

「音楽監督;甲斐正人 × 指揮;塩田明弘

塩田‐僕は1997年の『ジキル&ハイド』ブロードウェイ初演時に稽古を見る機会がありまして。幸せなことに千秋楽の稽古にも立ち会うことができたんです。フランクとのお付き合いはそれ以来で・・・そこで薫陶を受け、フランク音楽の原点ともいえる『ジキル&ハイド』の世界を肌で感じ、その後、数多くの作品に携わってきました。『デスノート THE MUSICAL』のような新作では、彼がすごい速さで作曲するのを目の当たりにし、それを譜面に書きとったりもしました。

甲斐-それはラッキーでしたね。私もワイルドホーンをよく知る塩ちゃんに全幅の信頼を置いて、この作品に入ってもらっています。姿月あさとさんがクリエのコンサートで「罪な遊戯」を歌った時に、塩ちゃんがすごくこだわって、長時間歌の指導をしたと聞きましたよ。

塩田-『ジキル&ハイド』になると、スィッチが入っちゃうんですよ。先生もそうでしょう?二人ともハイド化していくの。先生は『ジキル&ハイド』の日本初演から関わられて作品を熟知なさっているし、それでも再演のたびに発見があるとおっしゃる。僕もそう。終点がない。

甲斐-関わって17年、今回7回目になるけど、まだまだやろう!という気持ちになれる珍しい作品。先月、宝塚で『WEST SIDE STORY』の音楽監督を務めて、改めて優れたミュージカルの原点だと思いました。60年経っても発見があり、教えられる。『ジキル&ハイド』はそれに匹敵する作品です。1990年代の大傑作。ずっと携われるのは幸せです。

塩田-現場で指揮をしていると飽きないし、感動してばかりです。(略)

甲斐-なぜそんなに感動するのか、毎回考えるのですが。

塩田-ひとつひとつの楽器の音が飛び出した時に、生命を感じるんですよね。ひとつひとつの音が炭酸水のように飛び出すのが見える。また人間の声をフルに使い、オーケストラも生演奏。人の力、人間力を感じる作品なんですよ。

甲斐-確かにワイルドホーンのメロディの力強さは類い稀。それから専門的になるけど調性感覚、ハ長調やト長調などキーに対する考え方。宇宙の音の力とありようを、よく感じ取っている作曲家だと思います。演奏した時に、心地よいというか、こうでなければならないという音楽のありかたにみんなが納得できる。音はドからシまで7つ、半音を入れて12しかないけど、その方程式を見事にわかって作っている。そこにワイルドホーンの音楽の力強さがあると思います。

塩田-流麗でロマンチック、いろいろな感情の変化をメロディで描き、転調で感情の変化や潜在的な欲望を表現している。見事です。オケと歌についても、共調しているところもあれば、歌ではハイドの現実を物語つつ、オケはジキルの切なさを表すなど、反比例することもあり、音楽が芝居をしていると言っても過言ではありません。

甲斐-全体的にこの音楽は強い迫力でくるように作られ、そこに細かい感情線、リズムやハーモニー、メロディに対するサブの旋律が織りなしていく。それらを立体的な音楽になるように鮮やかにくっきりと描きたい。歌の面でも、稽古の最初から、みんなが一体化して弾けている。新しい色彩の2018年度版が出来上がりつつあって、楽しみです。

塩田-音楽は聴く分には楽しいけれども、奏でる、歌うのはすごく難しい。

甲斐-なぜ日本人の我々が西洋的なに二元論をテーマにした『ジキル&ハイド』に惹かれるのか。その理由を考えると、この物語は最後まで二元論で終わるわけではないんですね。実はエマが大きな役割を果たしていて、彼女だけが揺るがずにジキルを支え、自分を捨てているんです。殺されそうになってもジキルを思い、ジキルは人間に戻ることができる。つまり善悪の両面を持つ人間の奥に何かがあるという示唆。その存在がエマだと。

塩田-一見、ルーシーのほうが強い女に見えますが、実はエマのほうが芯があるんですね。だからエマは澄んだ、毅然とした揺れ動かない声を出さなければならない。エマの声と表現力はすごく奥深い。エマの存在が根幹を支えているんです。

甲斐-その通りですね。この劇の重要人物は、実はエマ。エマによってジキルは救われて、人間を取り戻して終わっていく。つまり人間には、善悪を乗り越えていく力があるというメッセージを感じます。ああ、人間ってすごいな!と感じ取り、帰っていける。だから、また観たくなる。僕らもやっていて、気持ちがいい。

塩田-石丸さんの演じるジキルの最期の場面が、僕には生きてきてよかったと感じているように見えるんです。それはエマの存在によるものだと・・・最期に幸せだと思えるのは人間の一番の理想だし、ミュージカルでもなかなかないですね。『ジキル&ハイド』は悲劇だけど、確かな未来を予感させます。

甲斐-ルーシーも最後に歌う「新たな生活」で、こんな自分でも新しいステージに行けると確信します。そこで殺されてしまうけど、一瞬でも幸せを掴めると信じられた。その前向きさを感じながら、我々はこの作品に関わっているわけですね。」


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