たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

1998年宙組『エクスカリバー』『シトラスの風』プログラムより-宙組の皆さんへ

2024年06月25日 00時22分30秒 | 宝塚

「宙組の皆さんへ 阪田寛夫(作家)

 宙組はいいですね。

 たまに戸外に出て、それがいい天気の日だと、立ち止まって雲の行方を追いながら「ソラ組!」、空の青みに吸い込まれながら「チュー組!」と叫びたくなります。

 そんなことを思うのは私だけかも知れませんが、この組の名前が決まった頃から、私は第三回ヨーロッパ公演に出たチームのことを思い合わせるようになりました。ご承知の通りその公演は、昭和50年9月から翌年1月まで4カ月の永きにわたりました。広いロシアで3カ月、パリで1カ月、全部で110回の公演を空路や陸路で移動しながら続けたそうです。

 きびしい条件の中で、バレエやレビューの本場での公演に成功をおさめた専科二名、各組選抜四十数名の方々が、公演期間中か、帰国後にか、ともかくご自分たちのチームの愛称を「空組」と命名されたと聞いています。

 その名には遠く宝塚を離れた場所、やがて冬と共に白一色となる空間を、運命を一つにして溶け合わせて移動する、という感覚も含まれていたかも知れません。そして宙組の皆さんも、最初は各組から選ばれた四十数名による、香港公演の稽古から歩みが始まりました。それから組の名が決まり、香港へ出かけて公演を見事に成功させました。

 私は香港へ行けませんので、テレビでしっかり観せて頂きました。ロンドン公演にも出演した生徒さんが、あちらのお客さんは、髪の毛で現地の人か日本人かの区別がついたが、こんどは皆さんひとしく黒い髪で、地元の人の反応がつかみにくいのではないかとおっしゃっていました。海外公演が7回目の専科の松本悠里さんのように、

「香港は宝塚と同様、西洋と東洋が入り交っていますから、あちらの方が宝塚をどのようにご覧になるのかも興味深いです」(宝塚GRAPH)

 という積極的なご意見も頼もしく、結果としては大成功だったことは、中国人、英国人たちへの観劇後のインタビューでよくわかりました。(略)

 ヨーロッパ公演の「空組」は、バレエやレビューの故郷に、いわば恩返しをなさったのですが、香港へ行った宙組は、文字や音楽など、古代からもっと濃く深く日本へ文明をもたらした中国へのご恩返し、という感銘も持ちました。

 桜のボレロ、タップには、映像で1、2分間見ただけで血が躍りました。映像といえば、ほんの十秒ほどさしはさまれた、全員レオタード姿のラインダンスの足捌きを見たとき、このスタートダッシュに目をみはりました。お正月の口上も、映像ですから至近距離で拝見することができました。

「栄えある伝統に無限に広がる夢をのせて、先達四組に負けぬ宙組を目指す所存でございます」

 という姿月あさとさんのきっぱりとした言葉を聞いて、私は自分の仕事や日常について思わず深く反省しました。

 大正3(1914)年に開幕した宝塚の歴史をかえりみますと、5つの組が生まれた時は、それぞれ大きな、大切な節目に当たっていることが分かります。

 花組、月組が同時に生まれた大正10年7月の夏季公演から、それまで年4回、延べ170日足らずの公演だったのが、大体毎月の公演になりました。観客数がふえたからです。

 雪組の誕生は大正13年夏で、この時4千人が収容できるといわれた宝塚大劇場が完成しました。日本の自然美の象徴「雪月花」が、これで揃いました。

 星組は昭和8(1933)年7月の宝塚大劇場公演から出発しました。ご承知の通り翌年1月に東京宝塚劇場が竣工。定期的な東京公演の開始に、「星」の持つモダンな匂いが似合いました。

 そして宙組が飛び立ちました。

 私の親しい宝塚ファンの方々も、香港の流感のことをずいぶん心配しておられましたが、みんなの祈りが叶えられて、風邪もよせつけぬ大成功おめでとうございました。

 突然ですが、ここでまど・みとお氏の「どうしていつも」という詩を、宙組の名にちなんで引用させて頂こうと思います。まどさんは宇宙をふるさとと考え、地球という自然をこの上なく大切に思い、花や雪の詩もたくさん書いておられる詩人であります。

 

 太陽

 月

 星

 

 そして

 雨

 風

 虹

 やまびこ

 

 ああ 一ばん 古いものばかりが

 どうして いつも こんなに

 一ばん あたらしいのだろう

 

 東京通年公演再開の年、一ばん新しい宙組の皆さまの、これからのご活躍を期待しております。

 

 


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