「「さっき婚礼のお祝いがあってね。」と、月が話しだしました。「みんなが歌をうたい、さかんに健康を祝って杯をあげたんですよ。なにもかも豊かで、はなやかでした。お客さんたちがひきあげていったときは、もう真夜中をすぎていましたっけ。母親たちは、花婿花嫁にキッスをしました。
わたしが見ていると、やがて花婿花嫁はふたりだけになりました。カーテンがほとんどいっぱいにひかれた、気持ちのいい部屋を、ランプがしずかに照らしていました。『やれやれ、やっとみんな帰ったね。』こう言って花婿は、お嫁さんの両手とくちびるにキッスをしました。花嫁はにっこりして、涙を浮かべながら、夫の胸にもたれかかって、流れの上に浮かんだ睡蓮の花みたいにふるえました。それからふたりは、幸福にみちた、やさしいことばをささやきあいました。『ゆっくりお休み!』と、花婿は言いました。花嫁は、窓のカーテンを少しひいて言いました。『まあ、きれいなお月さま。なんておだやかな、明るい光でしょう。』それからランプを吹き消しました。気持ちのいいへやのなかは暗くなりました。でも、わたしの光は、花婿の目に負けずに輝いていましたとさ。
-女性よ、詩人が人生の神秘をうたうときには、その竪琴にキッスしてやるものですよ。」
(山室静訳、岩崎ちひろ画『絵のない絵本』童心社、昭和41年11月25日初版発行より)
わたしが見ていると、やがて花婿花嫁はふたりだけになりました。カーテンがほとんどいっぱいにひかれた、気持ちのいい部屋を、ランプがしずかに照らしていました。『やれやれ、やっとみんな帰ったね。』こう言って花婿は、お嫁さんの両手とくちびるにキッスをしました。花嫁はにっこりして、涙を浮かべながら、夫の胸にもたれかかって、流れの上に浮かんだ睡蓮の花みたいにふるえました。それからふたりは、幸福にみちた、やさしいことばをささやきあいました。『ゆっくりお休み!』と、花婿は言いました。花嫁は、窓のカーテンを少しひいて言いました。『まあ、きれいなお月さま。なんておだやかな、明るい光でしょう。』それからランプを吹き消しました。気持ちのいいへやのなかは暗くなりました。でも、わたしの光は、花婿の目に負けずに輝いていましたとさ。
-女性よ、詩人が人生の神秘をうたうときには、その竪琴にキッスしてやるものですよ。」
(山室静訳、岩崎ちひろ画『絵のない絵本』童心社、昭和41年11月25日初版発行より)
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