たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

アンデルセン『絵のない絵本』第十一夜

2017年05月28日 22時51分46秒 | いわさきちひろさん
「「さっき婚礼のお祝いがあってね。」と、月が話しだしました。「みんなが歌をうたい、さかんに健康を祝って杯をあげたんですよ。なにもかも豊かで、はなやかでした。お客さんたちがひきあげていったときは、もう真夜中をすぎていましたっけ。母親たちは、花婿花嫁にキッスをしました。

 わたしが見ていると、やがて花婿花嫁はふたりだけになりました。カーテンがほとんどいっぱいにひかれた、気持ちのいい部屋を、ランプがしずかに照らしていました。『やれやれ、やっとみんな帰ったね。』こう言って花婿は、お嫁さんの両手とくちびるにキッスをしました。花嫁はにっこりして、涙を浮かべながら、夫の胸にもたれかかって、流れの上に浮かんだ睡蓮の花みたいにふるえました。それからふたりは、幸福にみちた、やさしいことばをささやきあいました。『ゆっくりお休み!』と、花婿は言いました。花嫁は、窓のカーテンを少しひいて言いました。『まあ、きれいなお月さま。なんておだやかな、明るい光でしょう。』それからランプを吹き消しました。気持ちのいいへやのなかは暗くなりました。でも、わたしの光は、花婿の目に負けずに輝いていましたとさ。

-女性よ、詩人が人生の神秘をうたうときには、その竪琴にキッスしてやるものですよ。」

(山室静訳、岩崎ちひろ画『絵のない絵本』童心社、昭和41年11月25日初版発行より)


絵のない絵本 (若い人の絵本)
アンデルセン
童心社