映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回はイランの巨匠マフマルバフ監督の傑作。「独裁者と小さな孫」です。
自らも祖国イランを離れヨーロッパで亡命生活を送る監督が、クーデターにより権力を奪われた独裁者と孫の逃避行を描いた作品です。
独裁政権崩壊により一夜にして、懸賞金のかかった将軍と後継者として不自由のない生活を送っていた幼い孫。死の恐怖に怯えながら、孫を守り自らの犯した罪と向かい合うように逃亡する姿は、権力者の威厳や風格からは程遠い、力のない老人と孫。
生き延びるたびに、自らの為政を否定することで、罪の深さを知り人間らしさを取り戻すが、圧政による反動は、暴力により革命が持つ宿命を反映し、衝撃的なラストへと進みます。
マフマルバフ監督は、独裁者がもたらした悪行と共に、抑圧された人間がもたらす憎悪による暴力を映しだし、独裁者と孫が共にした政治犯が示した寛大さから負の連鎖を止めようと試みているように思います。その試みは、ラストの10分に込められ孫の姿に投影されているように感じました。
人間の中にある憎悪から生まれる負の連鎖をいかに止めることができるか、この作品の中から命題が明らかではないかと思いました。