【卓上四季】:致命傷のデータ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:致命傷のデータ
打ち上げから73秒後だった。米航空宇宙局のスペースシャトル「チャレンジャー」号は突然大爆発を起こし、7人の飛行士が帰らぬ人となった。米CNNが中継した映像に世界中が言葉を失った。36年前のきのうのことだ
▼燃料の燃焼で発生する高圧ガスを密封するゴム製リングの劣化が原因だった。低温下では弾性が落ちるとして、かねて安全性が疑問視され、事故前日にも打ち上げ延期が検討された
▼判断の根拠となったのが、気温とリングの故障の関係を示した過去のデータだ。気温が18度を超えると故障はほとんどなく、下がるに連れて増えていた。氷点下になると予想された打ち上げで致命的な故障が起こる可能性は明白だった
▼ところが、この時の議論では故障がなかった打ち上げのデータが分析対象とされなかった。このため低温になるほど故障が増える傾向が覆い隠され、悲劇を招いたのである。データの省略は致命傷となることがある。過失でも責任は免れず、故意ならば罪を犯すに等しい
▼そのデータの取得すら放棄しようというのだろうか。コロナ対策を政府に助言する専門家が、リスクが低い若年層や濃厚接触者の場合、受診や検査をせず自宅療養を可能とすることもありうると提言した
▼検査によるデータ集積は疫学の基本。その断念は感染対策の破綻と同じだ。取り返しのつかぬ惨事が起こらないよう願うばかりである。2022・1・29
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2022年01月29日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。