【筆洗】:寄席演芸の世界で「ヒザ代わり」といえば最後に出演するトリの…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:寄席演芸の世界で「ヒザ代わり」といえば最後に出演するトリの…
寄席演芸の世界で「ヒザ代わり」といえば最後に出演するトリの落語家の直前に登場する芸人のこと。この「ヒザ代わり」の役目が難しいそうだ。客を楽しませるのは当然なのだが、あまり受けすぎても、次に出てくるトリの落語家はやりにくい。客席をほどよく温めておく芸がいる
▼この人に「ヒザ代わり」を務めてもらいたがった噺家(はなしか)さんは多かろう。紙切り芸の第一人者、林家正楽さんが亡くなった。76歳。亡くなる直前まで寄席に出演していたという。昭和の芸がまた消えた
▼芸歴は50年を超える。三味線に合わせ、踊るように体を揺らしながらハサミをふるう姿と見事できあがった藤娘、弁慶、双子のパンダなどを思い出す
▼数分の間に一筆で作品を完成させるだけでも苦労なのに客席のリクエストに応じ、作品をこしらえるのは骨だっただろう。前もって何が流行しているか、どんな求めが出そうかを、研究していたそうだ。大谷翔平選手やゼレンスキー大統領も難なく切れた
▼ある日の寄席。トリの立川談志さんがやって来ない。40分を紙切りでつないだ。それでも客に文句を言わせない芸の力があった
▼お客の注文にはおかしなものもあったらしい。あるときはお客さんがお菓子か何かの袋を差し出したそうだ。「封が開かないからハサミで切ってくれ」。事実ならこれもまた、正楽さんの愛した寄席らしい話である。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】 2024年01月28日 07:04:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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