【社説②】:NHK同時配信 視聴者の理解を前提に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:NHK同時配信 視聴者の理解を前提に
改正放送法が成立し、NHKがすべてのテレビ番組を放送と同時にインターネットで常時配信できることになった。
テレビの受信契約を結んだ世帯は、追加負担なしにスマートフォンなどでも見られるようになり、年度内に新サービスが始まる。
スマホでの動画視聴が広がり、テレビ離れが進む中、世帯数の減少も見込まれている。動画配信市場は海外勢の攻勢が激しい。
NHKが同時配信を急ぐのは、危機感の表れだろう。
新サービスで視聴者の利便性が高まるのは確かだが、将来の受信料制度は示されず、NHKの肥大化に対する懸念も根強い。
NHKの事業は受信料に支えられている。同時配信の拡大が、視聴者の理解を得ての判断だったのか疑問だ。NHKは自らの将来像を明確に示す必要がある。
常時同時配信は、通信環境の向上を背景に、放送と通信の融合が進む海外で広がってきた。
NHKは2014年の法改正で災害報道や一部のスポーツ中継に限って認められたが、今後は地上波の全番組を配信できる。
当面は放送の補完との位置づけで、災害時などを除き、未契約世帯にはスマホ画面にメッセージを表示して契約を促すという。
しかし、テレビを持たない視聴者が増えれば、契約体系そのものの見直しも迫られよう。新サービスが視聴者の負担増につながることがあってはならない。
一方、広告収入が減少傾向にあり、ネット事業の収益化も容易でない民放にとって、同時配信への投資は重い。
豊富な資金力を背景に、NHKが事業拡大に突き進めば、民放でも、とりわけ経営基盤の弱い地方局が圧迫される恐れがある。
NHKと民放は、それぞれの持ち味を生かして多様な番組を提供してきた。
地域の放送文化が細り、放送の多様性を保てなくなれば、不利益を被るのは視聴者である。
改正法はNHKにネット事業費を公表し、上限の認可を受けることなどを義務付け、民放への技術協力を努力義務とした。
相次ぐ不祥事に加え、政権との距離の取り方を問題視する指摘もある。新たな事業を通じて総務相の関与が強まれば、政治の介入を受けやすくなるのではないか。
配信事業が本格化すれば、影響力も増す。ガバナンスの強化はもちろん、透明性や独立性をどう担保するかが一層問われよう。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年06月05日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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