【社説】:五輪まで1カ月 誇れる大会にできるか/06.23
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:五輪まで1カ月 誇れる大会にできるか/06.23
東京五輪・パラリンピックの開幕がいよいよ1カ月後に迫った。新型コロナウイルスが世界的に流行する状況下で迎える五輪だが、機運も少しずつ高まってはいるようだ。
多くの競技で日本代表選手が続々と決定している。各国選手団も事前合宿に来日し始めた。
だが国民の盛り上がりはいまひとつと映る。これほど中止や延期を望む声の高い五輪がかつてあっただろうか。誇れる大会にできるかどうか疑問だ。
各国の選手団にも事前キャンプを中止するところが相次いでいる。自治体側から中止を申し入れたケースもある。
そんな中、政府や大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などの5者協議が、五輪会場の観客数上限を原則的に定員の50%以内で最大1万人とすると正式決定した。
「無観客が望ましい」と、専門家が提言したにもかかわらずである。「安全安心の大会」が本当にできるのだろうか。
観客数を制限するというが、実際にはそれを超える人が集まる会場も出てきそう。IOCや五輪スポンサーなどの関係者は「観客ではない」として、別枠にするため。つまり多額の協賛金を出すスポンサーなどの関係者は「特別扱い」するというのだ。五輪が商業イベントに成り下がっていることと、その弊害を如実に示している。
会場での酒類販売も認める方向で検討されていたという。感染防止のため観客に「直行直帰」を要請しながら、感染拡大を招きかねない。アルコール系飲料のスポンサーへの配慮か。ちぐはぐ感が否めない。
各国選手団など海外からのウイルス流入に、政府は厳重な対策を講じるという。だが早速、対策の緩さを露呈した。
来日したウガンダ代表選手団1人が成田空港でのPCR検査で陽性と判明した。感染者が出たことは仕方ないが、空港検疫で陰性だった残り8人について濃厚接触者かどうかの判断がされないまま大阪府の事前合宿地へ移動した。こんな体たらくで水際対策が十分とは言えまい。
選手団などの行動範囲を制限し、管理するというが、徹底できるのか。合宿地や会場の周辺住民は不安に違いない。
問題続きで国際社会から冷ややかに見られてきた東京五輪。招致の際、当時の安倍晋三首相は福島第1原発の汚染水問題を「アンダーコントロール(管理下)」だと強調して批判された。
そのほか大会エンブレムの無断転用問題や新国立競技場の建設計画見直しがあった。招致を巡る贈賄疑惑で日本オリンピック委員会(JOC)会長が退任し、開会式の演出で不適切な提案をした責任者も辞任。森喜朗元首相は女性蔑視発言で組織委会長を辞任した。
1年延期を決め、「コロナに打ち勝った証しとして完全な形で開催する」と前首相の時から強調してきたが、実際は程遠い。
それでも菅義偉首相は五輪開催を政権浮揚につなげたいらしい。だが盛り上がらない原因は五輪開催の是非やコロナ対策を問われても、はぐらかし、答えずにきた姿勢にある。
アスリートが躍動し、感動を呼ぶ五輪へ、1カ月で問題点を払拭(ふっしょく)する必要がある。まずは国民に向け、首相が開催の意義や感染対策を語るべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月23日 06:37:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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