【HUNTER・07.25】:県警の追認機関「鹿児島県公安委員会」に問われる存在意義|強制性交事件民事訴訟に集まる注目
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・07.25】:県警の追認機関「鹿児島県公安委員会」に問われる存在意義|強制性交事件民事訴訟に集まる注目
「公安委員会」が何をしている機関なのか、自信を持って説明できる国民はどれほどいるだろう。刑事の活躍や警察組織を描いたテレビドラマや映画は年中お目にかかるが、「公安委員会」が取り上げられた例を記者は寡聞にして知らない。結論から述べるが、この国の公安委員会は機能不全、警察組織の追認機関に過ぎない。警察官による不祥事がつづく鹿児島県の公安委員会は、その象徴である。

■公安委員会とは
警察庁は国家公安委員会が、都道府県警はそれぞれの自治体の知事の所轄の下に都道府県公安委員会が管理している。根拠法は「警察法」である。警察庁は、ホームページ上で次のように解説する。
公安委員会制度は、強い執行力を持つ警察行政について、その政治的中立性を確保し、かつ、運営の独善化を防ぐためには、国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切と考えられたため設けられた制度であり、国に国家公安委員会を置いて警察庁を管理し、都道府県に都道府県公安委員会を置いて都道府県警察を管理している
以下、福岡、宮城、静岡、熊本の県警ホームページから公安委員会の説明を拾ってみるとこうなる。
福岡県警――
県民の良識を代表する者が警察を管理することにより、警察行政の民主的管理と政治的中立性の確保を図ろうとするもの
宮城県警――
公安委員会は、警察が強力な執行力を持つ警察行政について、その運営の独善化を防ぎ、かつ、その政治的中立性を確保するためには、国民や県民の常識を代表する者が警察の管理を行うことが適切であると考えられることによるもの
静岡県警――
公安委員会は、県民の良識を代表する者により、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられました。公安委員会は、警察が県民の判断とかけ離れた独善的な組織となることを防止し、公平、中立の立場で仕事が出来るよう警察を管理することを目的としています。また県民の良識を代表して警察の仕事に、県民の考えを反映させるという役割をもっています
熊本県警――
公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられたもので、県民の良識を代表して警察の仕事に県民の考えを反映させるという役割を持っています。
どうやら、公安委員会の委員は『国民の良識』『県民の良識』を代表する者であるという。つまり、各県の公安委員会は県民目線で警察の管理を行うということだ。では、昨年来、性犯罪や事件のもみ消しといった警官不祥事で揺れ続けている鹿児島県警を管理する公安委員会は、どう説明しているのだろう。同県公安委員会のホームページを確認した。
公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられたもので、県民の良識を代表して、警察の仕事に県民の考えを反映させるという役割をもっています
やはり「県民の良識を代表する」委員が、県警を管理し、警察の仕事に県民の考えを反映させるのだという。しかし、昨年来の鹿児島における公安委員会の姿勢は真逆。数々の警察不祥事を受けて県議会に「百条委員会」の設置を求める大多数の県民の声には目もくれず、個々の案件についての抗議や質問に対する回答では県警の言い分を疑うことなく追認してきた。鹿児島の公安委員会が守っているのは「県民の良識」ではなく「県警の都合」なのである。
■まさにお手盛り、県警の不適切対応を「県警に調査させる」
鹿児島県警は昨年9月、2021年に起きた鹿児島県医師会の男性職員による強制性交事件に関する以下の質問取材に回答を拒否した。
・鹿児島県警中央警察署が、被害女性の告訴状提出を事実上の門前払いにしたのは事実か?
・男性職員が、県警の元警部補だった父親と中央警察署を訪れ、当該事件について相談したのは事実か?また、その際、父親の元警部補は同席していたか?
・男性職員が被害女性の雇用主を訴えた件の取調べで、男性職員の父親が同席したことはあるか?
・鹿児島県医師会の幹部(当時)が、当該強制性交事件について鹿児島県警の警察官より「刑事事件には該当しない」、「暴行と恐喝で負けることはない」などと申し向けられた旨を発言しているが、県警側がこうした発言を行った事実はあるか?
この取材に対する県警の対応は「組織的な判断として、お答えをいたしかねる」というもの。同様の質問を行った他のメディアには回答しており、県警の腐敗を厳しく追及してきた本サイトだけを不当な扱いで排除するのは不当として昨年11月、県公安委員会に以下の抗議文を送付し見解を求めていた。
質問内容は、何らかの形で事実であることが明らかになったものばかりで、県警はすでに県議会総務警察委員会での質疑の中で「門前払い」を「受け渋り」という言葉で認めていました。また、男性職員と元警察官の父親が、2021年の12月に中央署に行って事前の相談を行っていたことも、8月6日の県議会質疑で県警側が認めています。
事前相談とその時の「事件性なし」という結果については、県医師会が6月27日に開いた記者会見の席上、同会の顧問弁護士である新倉哲朗弁護士が「男性職員からそう報告を受け、(池田)会長に伝えた」などと明言しており、県警が、門前払いや事前相談の実態を隠さなければならない理由は見当たりません。
そもそも、ハンターが質問書を送付した8月27日、週刊金曜日のウェブ版が「鹿児島県警、強制性交事件もみ消し疑い 元警察官の父親が相談後、警察署が女性の告訴状受理拒否」という見出しで、強制性交事件に関する記事をウェブ上で記事を配信。その記事は、2021年12月に男性職員が相談のため中央署に出向いた際、同席者が元警察官の父親と弁護士だったことを県警が初めて認めたと報じるものでした。元警察官の父親が同席したという事実が、開示された情報だったことは明らかです。
さらに県警は、同様の質問を行った新聞社にも回答しており、具体的な理由も述べずに、「組織の判断」などという曖昧な表現をもって、弊社の質問取材にのみ取材拒否をすることは、著しく公平性を欠くものと思料いたします。また、当然に説明責任を果たすべき事案について報道機関ごとに対応姿勢を変えることは、形を変えた不当な言論弾圧だと言っても過言ではないと考えます。
以上の点について苦情を申し立てると同時に、県公安委員会の見解をおうかがい致します。
しかし、8カ月経った現在も回答はなく、二度も催促したが「調査中」「やっています」という言い訳が続いてきた。
問題は、催促のたびに公安委員会が申し向けてくる「調査中」「やっています」の手法だ。その点について、公安委員会の担当者は「現在、県警に調査させている」と明言する。おかしな話だ。こちらが指摘しているのは県警の不適切な対応。それを検証するために「県警に調査させる」という。犯罪者に「自分の悪行について調べて報告しろ」と命じたようなものだ。県警が本当のことを報告するわけがない。つまりはお手盛り。鹿児島の公安委員会に、県警を管理し、適切な指導を行う能力があるとは思えない。
■聞いて呆れる「県民の良識を代表」
そもそも、鹿児島県公安委員会は、県警への苦情申し立てに対する複数の事例で、県警の言い分を何の疑いもなく採用して“被害者”の心情を踏みにじってきた。
2023年2月に鹿児島県霧島市で起きたクリーニング店で働く20代の女性に対するストーカー事件を巡っては、ハンターの取材や県議会質疑などから、事件捜査の初動を担うはずだった霧島署が「苦情・相談等事案処理票」のデータを消去したり、犯人が映っているはずの防犯カメラ映像を隠滅するという手口で、事実上の事件もみ消しを図っていたことが分かっている。しかし、県公安委員会は、この件についての被害女性からの「苦情申し立て」に対し、不当捜査の実態を隠した虚偽ともとれる県警の言い分を、疑うこともなく容認し、被害女性に通知していた(*既報)。鹿児島の公安委員会が県警の追認機関になっている証左だ。これで「県民の良識を代表」とは聞いて呆れる。

昨年6月には、野川明輝本部長(当時)が警察官の犯罪行為を隠ぺいするよう指示したという疑惑について「県警から調査状況の報告を随時受けてきた。その中で、本部長が隠ぺいを指示したと判断する事実は認められない」という“調査結果”を公表した。しかし、この発表内容を信用する鹿児島県民は皆無に近いだろう。前述した霧島ストーカー事件のケース同様、組織トップに浮上した疑惑を、県警は絶対に認めない。子供でも分かる話だ。
公安委員会に対する質問取材の目的は、これまでハンターが報じてきた県医師会の男性職員による強制性交事件を巡り、捜査を担当した鹿児島中央署が、告訴状提出に出向いた被害女性を門前払いにしたことや、男性職員と元警察官の父親が事件発覚前に同署に相談していたか否かの確認だ。もう一点、県医師会の池田琢哉前会長や大西浩之副会長(前・常任理事)が男性職員から聞いたとしていた県警の見立て――「刑事事件には該当しない」、「暴行と恐喝で負けることはない」――が実際に警察側から発せられたものかどうかを確かめる必要があった。しかし、他の報道機関には答えて、県警批判を続けてきたハンターの取材には応じないという理不尽な対応に合理的な説明ができるとは思えない。
今月30日、その強制性交事件を巡り、被害女性が県医師会の元職員に対して損害賠償を求めた民事裁判の判決が出る。最後になって提示された新証拠=録音データによって、女性側の主張が認められる可能性が高くなっており(⇒既報)、報道各社の注目が集まる状況だ。被害女性側の主張が認められるとすれば、警察や検察の捜査の妥当性が再検証されるのは必定。被害女性の声も聞かぬうちから、県庁をはじめあちこちで「合意に基づく性行為」だと喧伝した上に、二度の会見でも同様の主張を展開してきた鹿児島県医師会の責任も追及されることになる。女性側勝訴の場合、ハンターは鹿児島県公安委員会に対し、強制性交事件の捜査に不正はなかったのか否かの質問書を送付する予定だ。
(中願寺純則)
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【社会ニュース・この国の公安委員会は機能不全、警察組織の追認機関に過ぎない。警察官による不祥事がつづく鹿児島県の公安委員会は、その象徴である】 2025年07月25日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。