【不思議の朝鮮半島】: 「脱・脱原発」にかじ切った韓国 「ほぼ日本」の原発を見てきた ■坂口裕彦・ソウル支局長
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【不思議の朝鮮半島】: 「脱・脱原発」にかじ切った韓国 「ほぼ日本」の原発を見てきた ■坂口裕彦・ソウル支局長
目の前に広がるのは日本海。海岸沿いには、ドーム型の原子炉建屋が建ち並んでいる。大型クレーンがせわしなく動き、原発で働いている作業員の姿もうかがえる。日本国内にある原発施設ではない。でも、「ほとんど日本にある」と捉えて、もっと前から注意を払っておくべきだったのではないか。
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新たに建設が進む新古里原発5号機(右)と6号機(左)=韓国・中小ベンチャー企業省提供
8月10日、韓国の中小ベンチャー企業省が実施した「プレスツアー」に参加して、南東部・釜山市と隣接する蔚山(ウルサン)市にまたがる古里(コリ)原発と新古里(シンコリ)原発を訪れた。ソウルから原発への最寄り駅となる蔚山駅までは、高速鉄道KTXに乗って約2時間。そこまでの交通費を自己負担すれば、同省の曺株鉉(チョ・ジュヒョン)次官の視察に同行しながら、原発施設を回ることができるという内容だ。
両原発には運転を終了したものも含めると原子炉が計8基あり、新古里原発ではさらに2基の建設が進んでいる。自然災害への備えはもちろん、テロ対策も厳重にしなければならない保安施設だから、写真撮影は厳禁。それでも、外国人記者を敷地内に招き入れたということは、「韓国政府として積極的に見せたいものがある」ということだろう。
「見せたいもの」とは、文在寅(ムン・ジェイン)前政権が進めた脱原発政策から、原発推進へと大きくかじを切った尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の方針に他ならない。5月に就任した尹氏は、大統領選期間中から「脱原発政策を白紙化して、最強の原発国を建設する」と主張していた。尹氏は6月、原子炉メーカーを訪れた際に「(文前政権だった)5年間、ばかげたことをしないで、原発産業をもっと力強く育てていれば、今ごろはおそらく競合相手はいなかったはずだ」とまで言い切り、文前政権を厳しく批判した。
7月には新たなエネルギー政策を決定。電源構成における原子力の割合を2021年の27.4%から30年には30%以上に引き上げることや、文前政権下で白紙撤回されていた南東部・慶尚北道(キョンサンプクド)にある新ハンウル原発3、4号機の建設計画を再開する方針を決めた。さらには、原発10基を30年までに海外に輸出することも盛り込んだ。経済を再生させる成長戦略の目玉になり得ると位置づけたのだ。
韓国の大統領は、国家元首と行政府のトップを兼ねる強い権限を持つ。原発をめぐる最近の慌ただしい動きは、「帝王的」と言われる大統領の号令一つで、国のめざすべき方向ががらりと変わる典型例と言えるだろう。
実際、現地で原発分野に携わる中小企業関係者と面会した曺次官の発言は、尹政権の方針をあけすけに伝えるものだった。「今は、希望に満ちたニュースでいっぱいだ。部品供給を担当できる中小企業が消えれば、安全性と競争力は担保しにくくなる。(文前政権下で)売り上げと人材が急減して危機に直面した中小企業の市場競争力を強化することが重要だ」。その後、曺次官は記者団に対しても「ロシアのウクライナ侵攻以降、原油価格が高騰していて、火力発電に対する不完全性が生じている。今は原発に対する価値を再評価する過程にある」と強調していた。
さておき、こちらがツアーに参加したのは、両原発の場所を地図で確認して、ハッと思い出したからだった。韓国屈指の港湾都市である釜山は「日本から一番近い外国の街」とよく言われる。3年前に釜山港から長崎県・対馬へ高速船で渡ったことがあるが、約1時間10分しかかからなかった。釜山の観光名所である魚市場「チャガルチ市場」も訪れたが、カニやヒラメ、ブリといった魚介類は、日本の魚屋でもおなじみのものばかりだった。
釜山と福岡市でも、その距離は約200キロ。日本海に臨む古里、新古里原発で、東京電力福島第1原発事故のような惨事が起きれば、西日本を中心に大きな影響は免れない――。…、残り769文字(全文2328文字)
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元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 政治 【政局・連載「政治プレミアム」】 2022年08月27日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。