旧統一教会と安倍派・清和政策研究会の関係性に対する世間の認識が最悪の展開をたどれば、「現在の自民党最大派閥である安倍派は凋落するしかなくなる」と、ある自民党関係者は断言する。そして、それが絵空事ではないことは、橋本派・経世会(現平成研究会)の没落によって歴史が証明している。安倍派・清和研が直面する危機的状況の実態とは。(イトモス研究所所長 小倉健一)

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の日本本部 Photo:JIJI

 ◆統一教会と安倍派・清和研の関係が国民の一大関心事に

 参議院選挙の応援演説中に銃撃されて死去した安倍晋三元首相。その実行犯である山上徹也容疑者が「(世界平和統一家庭連合〈旧統一教会〉に入信した)母親が家庭をめちゃくちゃにしたことを恨んでいる」と供述した。

 そのことから、旧統一教会(以下、単に「統一教会」とする)と自民党、特に安倍派(清和政策研究会)との蜜月的関係について、国民から大きな関心が寄せられている。

 統一教会は、1954年に韓国で文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が創設。日本では1960年代から信者を増やしてきた。同じく文氏が立ち上げた、反共産主義をスローガンに掲げる保守系政治団体・国際勝共連合とともに勢力を広げた。

 統一教会の文氏の自叙伝『平和を愛する世界人として』には、「日本に国を奪われた我が国の悲劇はいつ終わるのか」「わが民族の受ける苦痛の意味は何なのか」と戦前の日本支配に激しい怒りを感じながらも戦時下の日本へ留学した文氏の日常が克明に告白されている。

 文氏は日本の観光地に一切関心を示さず、東京で日本人の内在的論理を徹底的に触れ、研究したのだ。東京を歩き抜き、川崎の鉄工所で肉体労働者と共に働いていた文氏の実感は「見た目はキラキラして華やかでも、東京の街は貧者の天下」だった。日本人では気付けない、日本人の強さと弱さをアウトサイダーであった文氏には冷静に分析できたようだ。

 悪名高き「霊感商法」といえども他の宗派も似たようなことを実行に移していた時代である。なぜ、統一教会が突出して日本人の信者や献金の獲得に成功したかといえば、統一教会が日本人の内在的な論理を知り尽くしたからだろう。

 その方法論は日本の政治家にも通じたようだ。教団の伸長を支えた大きな要因として、全国霊感商法対策弁護士連絡会が挙げるのが政治家の存在だ。

 統一教会の元信者で金沢大学の仲正昌樹教授は、統一教会と特に縁が深い政治家として、7月22日、次のようなコメントをした(ABEMA TIMES)。

「間違いなく清和会(清和政策研究会、安倍派のこと)です。統一教会が中心になって作った国際勝共連合があるのですが、日本で設立するに当たって(元首相で安倍元首相の祖父でもある)岸信介さんと(日本財団創立者の)笹川良一さんがかなり協力されたと。あの当時、岸さんは韓国との政権関係もお互いに反共ということで良好で、付き合う上では支障はなかったと思います」

 実際に岸氏は、国際勝共連合の創設を支援。脱税容疑のために米国で実刑を受けていた教祖・文氏の早期釈放を求め、当時のロナルド・レーガン米大統領に「元首相」の立場で嘆願書を送っている。

 清和会(現清和研の当時の正式名称)の初代会長である福田赳夫大蔵大臣(当時、後の首相)も1974年の統一教会主催のイベントでこうスピーチをしている。

「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明ということであります」

 こうした統一教会と安倍派・清和研の関係性に対する世間の認識が最悪の展開をたどれば、「現在の自民党最大派閥である安倍派は凋落するしかなくなる」と、ある自民党関係者は断言する。そして、それが絵空事ではないことは、橋本派・経世会(現平成研究会)の没落によって歴史が証明しているという。

 まだまだ続く福田氏による文氏への持ち上げスピーチの内容を紹介するとともに、安倍派・清和研がどれほどの危機的状況に直面しているかを見ていこう。

「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明ということであります」

 福田氏のスピーチはその後、こう続いた。

「私はこのことを伺いまして久しいのでありますが、今日は待ちに待った文鮮明先生と席を同じくし、かつただいまは、文先生のご高邁なご教示にあずかりまして、本当に今日はいい日だな、いい晩だなと気が晴れ晴れしたような感じがいたすのであります」

「今日は文先生から『お前らは神の子である』という激励を受けまして、少し何か偉くなったような感じもいたします。私はこの『神の子である』というのは、世の中のために大いに奉仕せい、またそういう気持ちになった日本人個々を育て上げなさいと、こういうことであろうと受け取りました」

 「今日は文先生本当に立派なお話を承りましてありがとうございました。心から御礼を申し上げます」

 ◆統一教会と安倍派の関係性で想起する「橋本派・経世会」の没落

 今回、山上容疑者がテロ決行に至ったのは、安倍元首相が21年9月、統一教会の友好団体のイベントに送ったビデオメッセージを見たことがきっかけだと供述している。

 このように、自民党全体とのつながりを見せている統一教会であるが、とりわけ安倍派とのつながりは強く、深いものだった。

 最近でも安倍元首相の実弟で防衛大臣である岸信夫氏(安倍派)は、「(統一教会に所属する人物と)付き合いもあり、選挙の際もお手伝いをいただいている。電話作戦等々、ボランティアでお手伝いをいただいたケースはあると思う。選挙だから支援者を多く集めることは必要だと思う」「統一教会に手伝ってもらったというよりは、メンバーの方にお力をいただいたということだ」と記者会見で述べた。

 政治と支援団体の問題を巡っては、これまでも首相経験者や派閥の重鎮が、国民やメディアから厳しい批判を受けてきた。最も有名な案件の一つが、全日本空輸(ANA)の旅客機導入を巡り、米航空機メーカーのロッキードから政財界に工作資金が流れたロッキード事件だ。

 それ以外にも、未公開株を安値で譲渡された政治家らが値上がり益を得たリクルート事件や、金丸信・自民党前副総裁(当時)が5億円のヤミ献金を受け取った東京佐川急便事件、小沢一郎・民主党代表(同)の秘書を政治資金規正法違反で逮捕した西松建設事件などが挙げられる。

 しかし、今回の統一教会と安倍派のつながりについて、過去のある事件と類似点を指摘するのが、ある自民党関係者だ。

 「いわゆる日歯連ヤミ献金事件を思い起こす。批判の矛先が自民党というより橋本派・経世会に向いた。経世会を『仮想敵国』としていた節のある小泉政権下において、経世会は弱体化の一途をたどることになる」

 

ヤミ献金のやりとりを巡る
生々しい証言

 日歯連のヤミ献金問題とは、日本歯科医師連盟が自民党所属の国会議員にヤミ献金した事件だ。日歯連の役員の一人は裁判所で以下のように証言した。

「2001年7月2日の料亭『口悦』。(日歯連の役員2人が)部屋で待っていると、野中(広務・自民党)元幹事長、橋本(龍太郎)元首相が入ってきた。食事前に(日歯連の役員の1人が)が元首相に1億円の小切手が入った封筒を手渡した」

「元首相は封筒から小切手を出し、金額を確認し、野中元幹事長に見せた。元首相は『ありがとうございました』と礼をいい、元幹事長に渡そうとしたが、『どうぞ。どうぞ』と受け取りをすすめられ、自分の背広の内ポケットに入れた」

 

「遅れて青木(幹雄)参院議員会長が到着。元首相は小切手を見せながら小声で『歯科医師会から1億円の献金をいただいた』というと、青木氏は『ありがとうございました』と礼をいった。』

※2005年2月21日「しんぶん赤旗」より。ただし、新聞掲載時は被告の実名が掲載されているが、本引用では「日歯連の役員」と筆者が表記を変えている

 この日歯連ヤミ献金事件を巡っては、村岡兼造元官房長官は政治資金規正法違反で有罪となった。ところが、ここまで生々しいお金のやりとりが証言されているものの、橋本元首相は嫌疑不十分で不起訴。当時大きな権力を握っていたとされる野中氏も不起訴(起訴猶予)となった。

 くじで選ばれた市民で構成され、検察官が被疑者を起訴しなくてよかったのかを審査する検察審査会は、そのどちらに対しても「不起訴不当」の議決をするに至った。

 ◆幹部の不起訴を勝ち取っても 国民の信任と求心力を失った経世会

 この時に経世会は、幹部の不起訴は勝ち得たものの、捜査や裁判の過程において、国民の激しい怒りを買ってしまったのである。既得権益の打破を訴える小泉政権は、求心力を失った巨大派閥の呪縛から解かれ、さらに経世会を衰亡へと追いやる「郵政解散」へとアクセルを踏み込んでいく。

 かつて全盛を誇っていた経世会の凋落のように、もし「統一教会は安倍派の問題」という認識が世間に強く広まったとき、現在の自民党最大派閥である安倍派(清和研)は凋落するしかない。先の自民党関係者はこう話す。

 「自民党前政調会長で下村博文・安倍派会長代理が文部科学大臣在任中に、『統一教会』は『世界平和統一家庭連合』へと改称することが、文科省によって認可されている。現在、『統一教会関係議員リスト』として出回っている国会議員のリストも、安倍派の所属議員の数が突出していて、安倍派の面々はとにかく息を潜めて、嵐が去るのを待っている状況だ」

 「そもそも岸田(文雄)首相と安倍元首相は、政策的には真逆の考えだった。この状況で、岸田政権が安倍派に対して攻勢に出ることができれば、経世会のように10年以上は権力の中枢から追い出すことが可能だろう。『お公家集団』と呼ばれてきた岸田首相が率いる宏池会が、自民党の主流派閥へと生まれ変わる絶好のチャンスだ」

 現在の経世会は平成研究会と名称を改め、茂木敏充・自民党幹事長率いる茂木派となっている。茂木幹事長は7月26日の会見で「自民党として(統一教会とは)組織的関係がないことをしっかりと確認している。党としては一切関係ない」と述べ、「党としては関係ない」ことを強調している。表面上は、議員一人一人の問題と指摘しているだけのようにも思えるが、「安倍派の問題だ」と突き放しているようにも見える。

 今後、岸田派と茂木派が、安倍派にプレッシャーを加える場面は増えていくだろう。安倍派の誰かが法律を犯したわけではないだけに、この問題は幕引きが難しい。統一教会と蜜月の関係を築いてきた安倍派に対する国民の激しい怒りは爆発寸前だ。

 安倍元首相に凶弾を撃ち込んだテロ容疑者。その供述通り、政治思想に基づく犯行ではないとすると、彼の怒りは思わぬかたちで日本政治の底流を変えつつあるようだ。

 訂正 記事初出時より以下の通り訂正します。1、14、27段落目 橋下派→橋本派
(2022年7月28日9:35 ダイヤモンド編集部)