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Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「冬の虹」 から

2022-01-21 09:12:24 | 読書
一昨日の 小絲源太郎「随筆集 冬の虹」朝日新聞社 (1948/12) の内容から拾ってみる.

著者はこの本の刊行時 すでに還暦で,功なり名を遂げていたらしい.
16 トンの祖父母の世代より少し下かな,という感じ.自分が幼少時に聞かされたことと重なる部分もある.

数え年6歳で入った小学校はまぁ寺子屋で,ばあやがついてきてふたり並びの席のとなりに座った,とか.慶応の寄宿舎に入れられたところが一晩泣き明かして帰されてしまったとか... 
美大の修学旅行の乱痴気騒ぎのときの上級生には,藤田嗣治,岡本一平,池部鈞 (良の父) などがいたとある.著者は藤田のように戦争画にはまることはなく,戦時中は俳句を捻っていたらしい.

「揚出しの話」というタイトルの一章があり,グルメ噺と思ったら,江戸時代から続く生家の料理屋「揚出し」の話だった.これは当時の東京人には知られたことだったらしく,新聞の川柳欄に
   揚げ出しの帳場に小絲源太郎
というのが載ったこともあるという.

朝5時には店をあけ.朝湯も立て,吉原からの朝帰りの客に風呂つきの朝食を提供した,ある朝,最も苦手な数学の教師がいい気持ちそうに朝湯に入っているのを発見.それ以来先生は顔を見ればにたりと笑うようになりこちらもにこりと笑ってあげる.この「粘華微笑」は「しゃべるなよ」「かしこまりました」という意味だそうで,数学の点数も急上昇...

この料理屋の跡を継ぐのが嫌で嫌でたまらなかったが,幸い空襲で焼けてしまった,アメリカさんのおかげだそうだ.

ネットには著者が文展 (1918年 第12回) 初日に自作を破壊する事件を起こし,その後しばらく出品しなかったという記事があったが,そういう気性はこの本からは感じられない.

トップ画像左は本書の図版.その右の3枚はネットより.三色すみれがお好きらしく,同じ花瓶 (ヤフオクのはちょっと柄が違うようだ) で何枚も描いている.


「旅する小舟」

2022-01-20 09:30:21 | 読書
ペーター・ヴァン・デン・エンデ「旅する小舟」求龍堂 (2021/11).

出版社の惹句*****
これは小さな紙の舟が大海原を超えていく旅を描いた、文字のない絵本。
鬱蒼と生い茂る森を抜け、葉っぱの影をくぐり、氷山の間を、魚たちの集団を通り抜け、嵐や大波に飲まれそうになりながら、恐ろしい海の怪物たちの間も抜けて進む小舟。
小さな舟はいつも独りぼっち。でも、独りだからこそ、波の上にも下にも広がる驚異的な自然の美しさ、素晴らしさに気づくことができる。
大人の読者も子どもの読者も、成長することや学ぶこと、そして人生のアップダウンや苦楽についても、この静かで力強い物語から大いなるインスピレーションを得られるだろう。

・ショーン・タンが驚愕し、岸本佐知子が大激賞!
・エドワード・ゴーリーの編集者・田中優子が編集した子どもから大人まで、誰もが楽しめる文字なし絵本。
・オランダ発、英語版はNYタイムズとWSジャーナルのベストブックに選ばれた話題の1冊。
・ブライアン・セルズニック(「ユゴーの不思議な発見」著者)は「ティム・バートンやサルバドール・ダリやジャック・クストーの血を脈々と受け継ぎ、ショーン・タンとエドワード・ゴーリーを両親にもつ水棲の子供……とでも言えば、この本の素晴らしさを少しでもわかってもらえるだろうか。」と絶賛。
・2020年の〈ニューヨーク・タイムズ〉と〈WSジャーナル〉のベストブックに選ばれ、大きな話題になった。*****

上記引用は余計だったかも.小舟はただ浮かんで流れていくだけで,意識を持っているとは思えない.怪物たちは,不気味というより可愛らしい.描く方は楽しんで描いたようだ,それなら,著者の視覚的なたくらみを見つけて楽しめば良いんじゃないの ?
後半の横文字の固有名詞でも,知っているのはサルバドール・ダリだけ だし.
ても,このHPには絵が多数引用されていて,買わずに見たい人向け.

最初のページに従ってこの小舟を折ってみようとしたがうまくいかなかった.前川淳さんのホームページによれば,欧米の伝承折り紙らしいが,作ってみるとちょっと違うような...

小絲源太郎 「冬の虹」

2022-01-19 10:21:19 | 読書
小絲源太郎「随筆集 冬の虹」朝日新聞社 (1948/12).

古書店のメモに曰く*****
カバーイタミ カラー図版一ヶ所小穴あり ヤケ・シミ強
初版本 500円
*****
A5 ソフトカバー 272 ページ.

奥付の定価は 170 円.
この 1948 年の物価は,たばこ(ゴールデンバット)11 円、 新聞購読月 44 円 75 銭 映画封切館40円 コーヒー20円 米10キロ222円90銭.
どんな年だったかといえば ***** 年明け早々、凶悪事件が相次ぐ。犯罪件数は史上最悪を記録 世の中は殺伐としていて、他人のものをかっぱらったり、弱いものを 踏みつけて生きるという風潮が根強くはびこっていた。しかし人々は暮らしの立て直しに全力を注ぎ、そのかいあってか、ど ん底日本に薄日がさしてきた。女性の装い、祭りや催しの復活、 子供たちの表情・・・・。暗黒に埋没する流れと、そこから脱却しよ うとする流れが、せめぎあう年。*****

この本は粗悪な紙に印刷.黄色い紙と活字の黒とのコントラストが弱く目が疲れる.図版に接したページは色インクのためにまだらに変色している.図版左下,赤い ? 花のところに確かに小穴あり.でも定価を今の感覚になおせば数千円というところかもしれない.

著者 1887-1978 は文化勲章画家.どうってことはない内容だが,楽しく読めた.著者自装もよい.

「フジタよ眠れ」

2022-01-18 11:05:51 | 読書
菊畑 茂久馬「新版 フジタよ眠れ : 絵描きと戦争」 花乱社(2021/11).

Amazon の紹介*****
絵画表現とは何か、戦争とは、人間とは、1978年出版の名著が今甦る -

独自の絵画表現を追い求める一方、絵画についての自立した批評を鋭く問い続けた画家・菊畑茂久馬。「国家・絵描き・戦争」をめぐって、現在にそのまま直結する骨太の議論を仕掛けた代表作『フジタよ眠れ』を初出形に基づいて再刊する。幼少期をめぐるエッセイ「南国狂歌」を併録。 *****

目次*****

フジタよ眠れ - 絵描きと戦争 
川筋画狂人 - 山本作兵衛の絵
絵描きの中の戦争
補遺(三十年前の轍;戦争画はどこに;素描のままに)

南国狂歌(里も無惨なり;恥多き里;兎死して狐悲しむ;わが里も消えたり;東都に上らん;異国はまだ見えませぬか;楽しかりしか苦しかりしか;癌来たる;丁々発止;拾ってくれた神々;美は乱調にもなし;酒狂日誌)
*****

前半は 1972 年.後半 「南国..」は 1981 年の文章.前半は学生運動のアジ演説みたいな部分があり,読みづらい.後半の文章は生硬でなくなるが,解説 (山口洋三) の軽妙という表現とは程遠い,グロテスクな内容が多い.30 年前の自分なら喜んで読んだと思うが,今では休み 休みにしか読めない.

「フジタよ...」は戦争画の戦中・戦後での評価の違いから出発する.今泉省彦の戦争画ルネサンス説が紹介されるが,16 トンには (軍部の) 需要と (画家の) 供給が一致した単なる経済現象に思える.
後半文章はフジタに集中する.彼はポスターを描くつもりだったのが,日本の敗色が濃くなったあたりから戦争画にはまり「狂ってしまった」.そこには著者のフジタへの共鳴が感じられる.戦後のフジタの絵は「まったく死んだような」と形容されている.

「川筋...」はかっての筑豊炭鉱を千枚余に描いた山本作兵衛に,画壇を否定されたとする内容.相手は「作兵衛さん」と終始 敬称付きで登場する.いま残っている彼の絵は全て老境に達してから,記憶に頼って描いたものだと言う.最後の 2-3ページの,作兵衛さんの作画の実況中継 ? がおもしろい.

著者 菊畑 茂久馬 1935-2020 は昨年 11 月に NHK 日曜美術館に登場したが,見なかった.彼の作品は本書の 「南国..」に数葉が挿入されているが,彼の文章とは かけ離れているという印象を受けた.むしろ集団・九州派として第10回読売アンデパンダン展に「小便をかけたゴミ」を出品し,一般市民や行政や主催者とトラブルを起こしたあたりが,面目躍如と思う.当時 16 トンも生意気盛りで高校で話題にしたりした.

フジタの戦争画も,作兵衛作品も,菊畑作品もある程度はウェブで探し出すことができる.
図書館で借用.

J 子も参加のグループ展終了

2022-01-17 09:17:01 | お絵かき
コロナと雪に祟られながらのグループ展終了.終始閑散としていたものの,大きな絵が売れた方もあり,充実した1週間だったらしい.

こちら https://www.facebook.com/minato.rika/posts/1999292166914708 は2日目の風景.肖像画 ではなく似顔絵というコトバが使われているのがよい.

原稿を書くと写真も求められることが多い.実はブルーバックス新装版 (2018) 以来,ぼくも湊画伯に描いていただいたスケッチで勘弁して (良い言い方ではないな) いただいている.

二紀展 (​​正確には第74回二紀展第50回記念広島巡回展) 1/25(火)-30(日) はコロナにもめげず,予定通り開催だそうだ...と2時間前に書いたところだが

コロナ感染症拡大にともない展覧会およびすべての行事を中止します。​ご理解を賜りますようお願いいたします。

というしらせがはいった.

道志山塊 石老山より

2022-01-16 09:53:37 | お絵かき
*****子供の時のように両足の間へ弁当をひろげて,持参のハムの一切れを,これもちゃんと用意の白葡萄酒で頬張るのは.山歩きの贅沢の局地かもしれない.*****
尾崎喜八「山の絵本」岩波書店 (文庫 1993/5) より.ただしこの文章の初出は 都新聞 1934「春の山あるき」.

CD ケースに内側から描いたアクリル画は,上記 文章に添付された写真による.写真のキャプションには
 石老山より 木暮理太郎撮影
とある.

石老山 702m は東京からのハイキングコース.現在,山頂は樹木で覆われ,眺望はないという.石老山の南が丹沢,北が相模湖を挟んで奥多摩だが,相模ダム完成は 1947 年で,湖も木暮理太郎 1873-1944 の時代にはなかった.



MJQ on Bach

2022-01-15 09:29:55 | ジャズ
原曲は Bach の Fugue in A minor, BWV 947.



この Laurindo Almeida と The Modern Jazz Quartet 版はほとんど原曲通り.
しかし4っつのメロディ楽器の追っかけっこは面白い.



トップ画像の MJQ アルバム中のバッハ曲,Don't Stop This Train は同工異曲だが,
ライブでは演奏時間が4倍増であった.
アドリブパートが増えたようだが,どこからがアドリブだか一聴してわからないあたりがうまい.

ヴァイブ運搬の悪夢

2022-01-14 09:05:41 | ジャズ
こんな夢を見た.

ビブラフォン一式を携えて玉電に乗っている.三軒茶屋で降りれば家に近いのだが混み合っていてヴァイブを降ろせそうもない.渋谷まで行ってしまう... 時代が逆行していて,いまの世田谷線が路面電車で渋谷まで行っているのだ.おまけに自分も学生である.
渋谷でホームらしいところにヴァイブ一式を平行に並べてため息をついている.若いから力はないがエネルギーはある.しかし知恵も金もない.金があってもヴァイブは長手方向に 1.5m と大きすぎて,タクシーには乗りそうもない.1点ずつ運ぶとしても残りをおいておく処がない.
側に女の子がいて,心配してくれるのはわかるが,命令口調で,おまけに言うことがことごとくピントがはずれている.

後期高齢ゆえ眠りが浅くなり,夢をみていて都合が悪くなったら目が覚めればいいと言うことが分かっている.だからここで目を覚ました.


夢の分析
この前のジャズ研オンライン新年会で,首都圏に住んでいる人が意外に多かった.自分も学生時代までを過ごした東京に移りたいと思った.しかし電車ではヴァイブ運搬は不可能.でも 東京で車もやっかい...ということかな.

「編集をひもとく」より かもめのジョナサン

2022-01-13 08:44:03 | 読書
トップ画像は,昨日の
田村 裕 (著, 編集), 横井 広海 (著), 臼井 新太郎 (著)「編集をひもとく -書物観察の手引き-」武蔵野美術大学出版局 (2021/11).
の 240-241 ページより.この本の最後の節のタイトルは「『かもめのジョナサン』にみる飛行表現の推移」である.原題 Jonathan Livingston Deagull : a story のこの本の初版は 1970 年.
日本では五木寛之訳が 1974 年に刊行され,話題になったのを覚えてはいるが,読んだか読まなかったかは定かでない. あちらのベストセラーを流行作家が翻訳かよ ! と思ったのは覚えている.
40 年後の 2014 年に完全版が出て翻訳もされ,再び注目された.

一種の絵本で,海外ではいろいろな出版社が,それぞれ趣向を凝らして「編集」している.欧文の横組み左開きに対し,日本では縦組み右開き.読む方向も,かもめの飛ぶ方向も逆になる.このため見出し画像のように,日本版の写真には製版時に左右を反転させる「逆版方式」が採用された : その結果,かもめの羽の角度が反転している.絵本や挿絵の多い洋書を縦組みの本に仕立てる際にはしばしば行われることだそうだ...知らなかった !

40 年後の完全版では写真は明るく修正された.初版ではトレーシングペーパーに印刷され下の写真が透けて見える部分があったそうだが,そういうぼんやりした情緒は無くなった.「編集をひもとく」は「本は生き物のように生まれ変わっていくのてある」と締めくくられていた.


「編集をひもとく」

2022-01-12 08:40:42 | 読書
田村 裕 (著, 編集), 横井 広海 (著), 臼井 新太郎 (著)「編集をひもとく -書物観察の手引き-」武蔵野美術大学出版局 (2021/11).

*****
書物をひもとく=文化をひもとく
物理的なモノとデザインが交差するところに書物の真髄を見出す観察とは?

2022年度開講のムサビ通信教育課程「編集論」の教科書

画集や写真集などの作品集、絵本などビジュアル的要素の多い書物を対象に「編集のされ方」を観察するための手引き書。書物観察によって、編集方針やコンセプト、編集手法、表現の特徴などを読み取り、書物研究のエクササイズを手ほどきする。また、活字や印刷、紙や製本方法など、書物をかたちづくっている諸要素に注目し、各々の役割と編集との関連性、現代と歴史の深いつながりの解析!
*****

田村による「はじめに」の注
*****「ひもとく」らは「本を開く」「本を読む」という意味のほか,近年よく使われるようになった「分析・解明する」というニュアンスのいみがあり,本書の場合も後者の意味で用いている.*****

サブタイトル「書物観察」が示すように,本の内容に深く立ち入ることはなく,あくまで装丁・挿画に重点がある,美大らしい本.

図版が小さいのが難.いっそ われわれの「視て聴くドレミ - フーリエ音楽学への招待」に倣って,パワポ体裁を電子出版されたら如何であろうか.でも,著作権の問題があるかな.

内容
第1章:編集コンセプトに触れる 横井広海 / 第2章:印刷と造本 田村裕 / 第3章:書物と紙 臼井新太郎 / 第4章:文字組みと装丁 田村裕 / 第5章:「編集」を観察する 田村裕・臼井新太郎・横井広海

第4章までは教育用という感じだが,写真集,図録,絵本などが次々に登場する第5章が一般向き.
読むことばかりでなく,本そのものも好きなので,嵌ってしまった.この本については,もう少し書きたい.

reading

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