Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「フジタよ眠れ」

2022-01-18 11:05:51 | 読書
菊畑 茂久馬「新版 フジタよ眠れ : 絵描きと戦争」 花乱社(2021/11).

Amazon の紹介*****
絵画表現とは何か、戦争とは、人間とは、1978年出版の名著が今甦る -

独自の絵画表現を追い求める一方、絵画についての自立した批評を鋭く問い続けた画家・菊畑茂久馬。「国家・絵描き・戦争」をめぐって、現在にそのまま直結する骨太の議論を仕掛けた代表作『フジタよ眠れ』を初出形に基づいて再刊する。幼少期をめぐるエッセイ「南国狂歌」を併録。 *****

目次*****

フジタよ眠れ - 絵描きと戦争 
川筋画狂人 - 山本作兵衛の絵
絵描きの中の戦争
補遺(三十年前の轍;戦争画はどこに;素描のままに)

南国狂歌(里も無惨なり;恥多き里;兎死して狐悲しむ;わが里も消えたり;東都に上らん;異国はまだ見えませぬか;楽しかりしか苦しかりしか;癌来たる;丁々発止;拾ってくれた神々;美は乱調にもなし;酒狂日誌)
*****

前半は 1972 年.後半 「南国..」は 1981 年の文章.前半は学生運動のアジ演説みたいな部分があり,読みづらい.後半の文章は生硬でなくなるが,解説 (山口洋三) の軽妙という表現とは程遠い,グロテスクな内容が多い.30 年前の自分なら喜んで読んだと思うが,今では休み 休みにしか読めない.

「フジタよ...」は戦争画の戦中・戦後での評価の違いから出発する.今泉省彦の戦争画ルネサンス説が紹介されるが,16 トンには (軍部の) 需要と (画家の) 供給が一致した単なる経済現象に思える.
後半文章はフジタに集中する.彼はポスターを描くつもりだったのが,日本の敗色が濃くなったあたりから戦争画にはまり「狂ってしまった」.そこには著者のフジタへの共鳴が感じられる.戦後のフジタの絵は「まったく死んだような」と形容されている.

「川筋...」はかっての筑豊炭鉱を千枚余に描いた山本作兵衛に,画壇を否定されたとする内容.相手は「作兵衛さん」と終始 敬称付きで登場する.いま残っている彼の絵は全て老境に達してから,記憶に頼って描いたものだと言う.最後の 2-3ページの,作兵衛さんの作画の実況中継 ? がおもしろい.

著者 菊畑 茂久馬 1935-2020 は昨年 11 月に NHK 日曜美術館に登場したが,見なかった.彼の作品は本書の 「南国..」に数葉が挿入されているが,彼の文章とは かけ離れているという印象を受けた.むしろ集団・九州派として第10回読売アンデパンダン展に「小便をかけたゴミ」を出品し,一般市民や行政や主催者とトラブルを起こしたあたりが,面目躍如と思う.当時 16 トンも生意気盛りで高校で話題にしたりした.

フジタの戦争画も,作兵衛作品も,菊畑作品もある程度はウェブで探し出すことができる.
図書館で借用.
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